それが恋だというのに気付くのは遅かった。
亮介が珍しく「公園に行かないか」なんて言うから、告白でもされるのかな?なんて変な期待していたのに。
「俺、高校は青道に決めたから」
小・中と同じ学舎で、家も近く、兄弟の様だったあたし達。
「…それって、」
それはあまりにも突然で、言葉が出なかった。
「東京」
「……そんな」
高校に入っても野球を続けるって言ってたから、あたしはてっきり地元でだと思ってた。
「卒業式終わったらすぐ行くから」
「そっか…」
ああ、何もかも突然すぎる。卒業式が終わったらって、あと一週間しかないじゃない。
「じゃあ、お別れ会とかしなきゃねー」
「ガキかよ。小学生じゃねぇんだから」
ギィと錆びたブランコが揺れる。昔はこの音が嫌いだったけど、今はなんだか聞くと安心する。
夕方の、誰もいない公園。静かすぎて、怖い。
「ねぇ、あたし達が小学生の頃は皆で公園で集まって鬼ごっことかいっぱいしたのに、今の子は公園で遊ばないんだね」
実際、近所に二つあった公園の一つは駐車場になってしまった。
「あとはここだけか……」
あたし達の思い出の場所が消えていく。便利になる一方、何か大事なものを失っている。でも、大人はそんな事に気付かない。
「その内ここも埋め立てられて駐車場とかになっちゃうのかな…」
「………きっと、な」
亮介との思い出が消えてしまう。
そんなの、嫌だ。
「……なつ、どっちが遠くまで飛べるか競争しない?」
「いいね!久しぶり!負けないんだから」
あたしは昔からブランコが好きだったから、遠くまで飛べる自信があった。
目一杯ブランコを漕ぐ。
「せーので行くかー?」
「ううん。先どうぞ」
「分かった」
───後悔した。
先、なんて言うんじゃなかった。
飛んだ時の後ろ姿。本当に離れていっちゃって、もう二度と、帰っては来ない。
君は最後に鳥になって、遠くに行ってしまった。
「おー、かなり飛んだなー……って、なつも早く……」
あたしはいつの間にか漕ぐのを止めていた。
「どうかした?」
「…なんでも……ない…」
あたしは無理して笑ってみた。本当はここで泣けば良かったのに、涙が出なかった。
「…腹減ったから帰るか」
「そうだね」
あたしは亮介より前を歩いた。後ろ姿を見たくなかったから。
「じゃあな」
あたしの家の前で別れを告げる。
「うん。また明日」
『また明日』
これが言えるのもあと少ししかない。
明日、あたしは君に笑顔でいられるのだろうか?
少しだけ、涙が出た。
………遅いよ。
あたしはまだ、夢を見ていたいのに、どうやらそれは無理みたい。
アリスは夢を見る
笑顔で
「バイバイ」
って、言えないよ