気付けば明日でこの寮を出ていかなきゃならない…のに、何一つ片付いてない自分の荷物達。さて、どうしたものか。沢村に手伝わせようと思ったのにアイツは何かを察知したのか、早々と逃げたみたいだ。
「ハァ……」
溜め息しか出ない。いや、もっと早くにやらなかった自分が悪い。気を取り直して荷物を纏める。
残念な事に集中力は10分も保たず、沢村の漫画を読み始めていた。
「倉持先輩まだ荷物纏めてないんすか?」
「沢村!いー所にっ」
持っていた漫画を放り投げて沢村にしがみついた。もう逃がさねぇよ。
「手伝え!」
「えー…」
「先輩命令」
文句を言いながらも手伝う沢村。俺はいい後輩を持った。
「教科書とかどーするんすか?」
「あ?テキトーに纏めて縛っちゃっといて」
「うす。………あれ、これ挟まってましたけど」
渡されたのは一枚の封筒だった。そこには俺の宛名。
「この字……」
「もしかしてラブレターっすか?」
「うるせぇ!」
この綺麗な字を書く人物を俺は一人だけ知っている。2年の時にいなくなった…田中だ。
「絶対今日中には終わんないっすね。俺他に人呼んできます」
「ああ…」
沢村が部屋を出たのと同時に封を開ける。こんな手紙があったなんて気付かなかった。
田中とは付き合っていた、と言っていいのか分からない関係だった。周りは付き合ってると思ってたらしいが、本人同士は想いを伝えたわけじゃない。でも多分、両想いだった。
田中は2年の夏の終わりに、死んだ。俺にはよく分からない病気で、手術をしても長くは生きられないと言われていたらしい。
「先輩、何ボーッとしてんすか?」
「うわぁああっ!ビックリさせんなバカ村!!」
「俺の所為!?」
今のは本当にビックリした。俺の寿命縮んだから沢村の所為だからな!
「ったく…」
今ので手紙を読む気をなくした。
「読まないんだったら俺読みましょうか?」
「何でそうなるんだ」
「気になる!!」
ヘラヘラ笑ってる沢村の顔がむかついたからヘッドロックかましてやった。
「いーんだよ、これは」
「く……苦し…」
こんな所で読むのは勿体ない。沢村達もいるし。ここを出て一人になった時にゆっくり読むか。
「倉持先輩も栄純君も遊んでないでやりましょうよ」
「あー、そうだな」
「春っち!助けようよ!」
その後も何人か手伝いに来てくれて、何とか荷造りは終わった。
青道に来て良かった。つらい事もあったけど、その分沢山の事を学んだ。信頼出来る仲間がいるっていいもんだな。
でも、そこに田中がいないのが、少し寂しい。
あの日の放課後の事を思い出す時に必ず思うのは、キスくらいすりゃよかったって事。今となっては苦い思い出だ。
でも、目を閉じれば…
思い出の君が僕に微笑む
一生忘れねぇから…