悲しい嘘を吐くのは貴方の所為…


交ざりあう煙


煙草を吸い出した理由は昔好きだった人が煙草を吸う女が好きと言ったから。そんな単純な理由。でも次に付き合った人はそれが嫌だと言ったが、止められなかった。

「なつの煙草の煙っていい匂いだよね」
「そう?」

もう何年も同じ銘柄。他のは吸う気になれない。

「マットのも嫌いじゃないよ」
「サンキュー」

一緒にいる時はお互い吸うから部屋が煙くなる。換気扇は調子が悪いらしい。

「なつはオレより吸うよね〜」
「そうかなぁ」
「あんま吸い過ぎんなよ」

女の子は特にね、って言われたけど今更だ。あたしの肺はとっくに真っ黒。煙草なんてお金もかかるマイナス要因しかないのに、それでも止められない。

「でも、なつが吸ってる姿好きだよ」

手招きされてマットに近づく。これはマットのキスの合図。煙草吸った後のキスは好きじゃないんだけど。

キスをしながらあたしの服に手をかけた時、マットの携帯が静かな部屋に鳴り響いた。

「……はーい?」

土曜日のこの時間にかかってくるのはマットの彼女だろう。面倒臭そうに会話をしてるマットが、面白可笑しい。

「今から会いたいだってぇー」
「じゃあ行ってらっしゃい」
「行っていいのかよ」
「いいよ」

彼女の所に行っても必ず最後はあたしの所に帰ってくるから。彼氏として失格だろうけど。

「気を付けてね」
「おー」

もう一度、キスを。やっぱり吸った後は嫌だけど、今日だけは何故か凄く愛しく感じる。

行かないでって言いたいけど、あたしにそんな権利はないから。

部屋を出ていく後ろ姿が一番嫌いで、笑顔で部屋に入ってくるマットが一番好きで。

もう一本、と煙草に火を点けようとして止めたのはマットの言葉が頭を過ったから。

「…早く、帰ってこないかなぁ」

呟いた言葉が一人だけの部屋に虚しく響いた。





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