昔から決めていた。
どうせ死ぬならあの人に殺されて死にたい、と。
そんな話をすれば、「いやや」と言われ、理由を問いただせば「何で俺なん?」と逆に聞かれる。私は黙る。彼が理由を言わないように私も言えないから。だから黙る。そうすると必ず「この話は終わり」それだけ言い残し私の前からフラッと姿を消す。…逃げた。私はそう思ってる。今日も逃げられた。でも私は追わない。というより、追えない。追おうと思うともういないからだ。速い。流石隊長。そうでなくちゃ隊長なんかやってられませんね。
「また逃げられたんだね」
私の顔を見て副隊長が言った。また、とは失礼な。でも言えない。
「隊長は私の事が嫌いなんでしょうかね?」
「普通に考えて部下を殺す隊長が何処に居るんだよ」
「うちの隊長ならやってくれそうな気がします」
「否、しないでしょ。普通」
「普通って何ですか?」
「……君と話すのは面倒臭いね」
「私も副隊長と話すの苦手だったりします」
「………」
副隊長はその後何も言わないまま何処かへ行ってしまった。何か言えよこの野郎。隊長と違って副隊長はやっぱり苦手だ。
そんな次の日。
「イヅル虐めた?」
「は?」
「なぁんか昨日から暗いんやけど」
「知りません。ていうか何で私に聞くんですか?」
「何となく、や」
副隊長を虐めた覚えはない。ただ苦手と言っただけだ。それが問題?まさかそんな事で暗くなる副隊長がおかしい。
「あんま虐めんでね」
「だから虐めてませんよ。それより隊長、今日こそは…」
「次それ聞いたら怒るで?」
「……何でですか?」
「大事な部下を殺す隊長が何処におんねん」
「隊長なら…」
「あのな」
「私は虚に殺されるくらいなら隊長に殺されたいんです」
「何で」
「隊長が好きだから」
おっと、気付いた時にはもう遅い。言うつもりなんかなかった言葉。しかもこんな形で。
「そういう事…」
「忘れて下さい」
「分かった。殺したるから目、閉じや」
言われた通り目を閉じて、隊長の行動を待つ。まさかこんな早く夢が叶うなんて思わなかった。
「……」
「………」
「…………隊長?」
目を開けると、目の前にいたはずの隊長の姿はなくなっていた。
また、逃げられた。
「あ…」
違う。
隊長は、ちゃんと…
「やっぱ……隊長はすごいやぁ………」
痛みに気付かないほど一瞬の出来事だったと悟る。
あたしからはちゃんと血が流れてるから隊長は約束を守ってくれたんだ。
意識が遠退く瞬間にある一人の人物が目に写った。
「ふく…たいちょ……?」
副隊長の手には斬魄刀。刀身から鮮やかな血が付いている。
「そん…………なぁ」
最後の最後まで隊長に裏切られた。本当に酷い人。
目に写る悲しい顔をした副隊長。それはいつも私と話す時と同じ表情。
───そういう事、か
ごめんなさい。私鈍いから気付かなかったよ。
………さようなら。
「僕だって、君が好きだったんだよ」
息絶えた愛しい君へ泣きながら呟いたその声はもう、聞こえないだろう。
「隊長に殺されるくらいなら、僕が……」
君が隊長に殺されたいほど好きなら、僕は殺したいほど君が好き。
赤い血は
どうして流れた?
最愛