桜の蕾が出始め、もうすぐ街中がピンクに染まるこの季節─…


「先輩、卒業おめでとうございます」
「ありがとう」

あたしの最後の我が儘を聞け、と式が終わった後に呼び出された。

「でもまさか悠太が中学も高校もあたしと同じ部活に入るとは思わなかった」
「偶然ですよ」
「本当にー?あたしの後を追い掛けてきたんじゃないの?」
「違いますって」

何度か、部活帰りにこの土手を先輩と歩いた事がある。
でも今日が最後なんだと思うと少し悲しい。

「先輩って大学どこ行くんでしたっけ?」
「……京都!」

遠い場所とだけ聞いていたがそんなに遠いとは。

「来週には出発しちゃうから、もうここの桜は見れないなー」

この土手は桜が咲くと辺り一面がピンクになり、花見に丁度いい場所だったりする。

「そうだ!あっち遊びにおいでよ。案内してあげる」
「気が向いたら」
「ちょっと」

瞳に少し涙を浮かんでるのが見えた。

「京都、行きますから」
「うん」

だから、どうか…

「あっちで彼氏出来たとかやめて下さい」
「悠太……」

久しぶりに会った先輩に彼氏がいたら会いに行った意味がない。

「……先輩」
「なーに?」
「お元気で」

気が付けば泣いている自分がいて、先輩もそれを見て泣いていた。

「さようなら…」
「また、会おうね」

去っていく後ろ姿を見送りながら、桜が咲く頃にはもう貴女はいないんだと思った。
此処の桜は毎年同じように芽吹き花を咲かすのに、貴女がいないなんて。

「好きでした」

遠くに行ってしまった後ろ姿に向けた言葉は、春風に攫われて三月の空に消えた。

─いつか、届きますように


春を迎える


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