月の廃墟(スタカイ)
2011/09/20 00:56

『世界にキミと

2人だけなら…』








上手いんだか下手なんだかよくわからないキミの歌が好き。
その無邪気な笑顔が好き。
少し怒りっぽいところも。
キミが隠したがる癖でハネた赤い髪も。
澄んだ緑色の目も好き。





いつからそうしているのかわからない。時間の感覚は麻痺してしまったし、俺たち2人以外の人間はみんないなくなってしまった。

人のいなくなった町は風の唸り声と砂埃にまみれ、
あっという間に荒廃した。

どうしてそんな事になったのか
どうして俺たち2人はここにいるのか
「どうして?」と考える隙もないほど、昔の事のような気がする。もしかしたらつい昨日の事かもしれないけれど、もう考えるのはやめた。
考える事に意味なんてない。


遠くでカラスの鳴く声が聞こえた。

かつては大衆を乗せて進んでいた筈の鉄の箱に俺たちは身を寄せていた。
所々窓ガラスが割れていて、床に積もった少しの土からは草が生えている。赤い布の被ったソファは裂け、すっかり汚くなった内側のスポンジが内臓のように飛び出して、それは少し触っただけでボロボロとくずれて埃を巻き上げるような状態だ。
汚れて曇った窓にいつも見ていた風景などなく、奥に続く線路は茂った草に覆われてもはやどこに向かってのびているのかさえわからない。



「それから、…聞いてる?」

隣を見ると、すぐ横の壁にもたれて、カイルは目を閉じて眠っているようだった。

『ボクなんかのどこが好きなの?』
そう言ったキミの為に好きな所を数え始めて、まだ数分しか経っていない。いや、もうずっとこうして数えていたような気もする。
だって本当に大好きなんだ。キミが思っているよりもずっとずっと。



繋いだ手から伝わる熱が嬉しくて、この世界でキミだけが現実のような錯覚に陥る。

キミは何を思ってる?
夢ならいいのにと思う?

俺と一緒にいること、後悔してるかな。

それでも俺は、キミを傷つける世界なんていらないから。やっぱり何度でも願ってしまうんだ。


『世界にキミと2人だけなら良かったのに。』


あぁそうか。



こんな世界にしたのは

たぶん、俺だ。



目を覚ましたら怒って責めていいよ。泣いて罵っても怒らないよ。

だから、早く目を覚まして

それでまた
たくさん話をしよう、カイル。



「おやすみ」

頬にそっとキスをして






俺は目を閉じた。












バッテリーが残りわずかです。
充電してください。

バッテリーが―…











あとがき

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