小説 | ナノ


▼ Happy Wedding Tomorrow

約束しよう,永久の愛を。
誓い続けよう,君への想いを。

いつか僕がいなくなる日まで。

     ***

綺麗な青空と太陽が志摩の頭を照らしていた。
眩しそうなそぶりもせずむしろそれすら嬉しいらしく,鼻唄まじりに歩いている。
「いよいよ明日か,結婚式」
あの白いウェディングドレスは奥村君にえらい似合うやろなぁ。
この日の為になけなしのポケットマネーを叩いて買ったリングもあの白い指にはえるやろうし。
頭の中は明日の事でいっぱいな志摩はスキップまで始めた。
通行人からは痛い目で見られたがそんなことは気にしない。
世界は今薔薇色なんや。
しばらくして彼のケータイから電話の着信音が鳴った。
『もしもし?俺や,志摩』
「あ,坊ですかー。どないしたんです?」
『そのやな…非常に言いにくいんやけど…』
「もしかして明日の会場でのスピーチのことですか?それなら気難しく考えんと坊の好きなように…」
『志摩…。よぉ聞けよ』


『奥村が結婚取り消したいって』


     ***      
数十分後,勝呂の元へ土埃を舞い上げながらダッシュで志摩がやってきた。
「なんでぇ!坊なんでですか!?」
「お,お前男やろ。そんな泣くなや」
「だって急に結婚やめるなんて言われたら誰だって泣きますよ!!」
「せやかて奥村が言ったんや,しゃあない」
勝呂のズボンにしがみついた志摩は半泣き状態。
呪文のようになんでと繰り返す。勝呂にとってはいい迷惑だ。
「そんなに気になるんなら本人に聞けばええやないか。」
「さっきから電話かけても繋がれへんのですよ!俺どないしたらいいやろか!」
そんなん知るか。勝呂は思ったが流石に言わなかった。
「…俺探してきますわ」
完全に生気を失った志摩は夢遊病患者のようにおぼつかない足どりで去っていった。
その様子を見た勝呂はまだ途中のスピーチ原稿を仕上げるかどうか悩みはじめた。

    ***
寮・公園・コンビニ・商店街。
思いついたもの,目にはいったもの全て探した。
ケータイは相変わらず繋がらず。
息を切らしながら、けど走りを止めないで。
「あんた何やってんのよ」
たまたま通りがかった神木がいつもと違う様子の志摩に声をかけた。
「神木さん…。俺には明日がないのや」
まるで口から魂が抜けかけているような顔でそう言った。
「どうしたのよ,いつものあんたと違うじゃない」
「…あのな,奥村君がな,」
「燐ならさっき会ったわよ」
三秒ほど志摩が氷のように固まった。
「あいつも浮かない顔してたけど何かあったの?」
「どこ!それどでぇ!?」
さっきとは打って変わって必死な志摩に迫られ,神木の顔が一気に青ざめる。
「が,学校の階段で会ったわよ」
志摩はそれを聞いた途端,ありがとうと一言残して走っていった。

    ***
「奥村君おるー!?」
泣きそうな顔で叫びながら
階段を駆け上がっていく。ようやく最上階に来たものの彼どころか誰にも会わなかった。
俺なんかやってしもたかな…。
頭で考えるも思い当たる節が多々ある自分が恨めしい。
せめて会って話だけでもしたい。
もう諦めて下ろうとした時,志摩の首筋に風が通った
。慌てて振り向くと屋上へと続く通路のドアが僅かに開いている。

「……」

思い切って開けたら一気に外界の空気が流れ込んできた。

もうすっかり空は茜色。
その中で一人。
愛しい人が座っていた。

   ***
「こんな所におったんか」
その声に驚いて燐は顔をあげた。
「あのさ,なんで結婚式やめたいんか教えてくれへん?」
「……」
「なんか問題でもあるんか?」
「……だってよ」
急に涙目になった燐に動揺する。
「結婚したら多分俺もっと志摩のこと好きになる」
これがいつもだったら大喜びするだろう。
けど今は違った。
燐の放つ言葉一つひとつが志摩の耳に突き刺さる。
「俺は悪魔だからずっとこの姿で生きていける。けど志摩は違う。
志摩だけが歳とって,志摩だけが死んでいく姿見たくねぇんだ」
ポロポロと燐の瞳から雫が溢れる
。確かに悪魔と人間の身体は違う。
圧倒的に志摩の方が早く朽ちていく。
「俺,どうしても志摩のいない未来ばっか考えちまうんだ」
なんや,そんなこと。
「まぁ俺の方が奥村君より寿命短いのは当たり前なんやけどな」

だから奥村君の人生ちょっと俺にくれませんか。

そう言ったらまた新しい涙を流した。




――エピローグ――

「いよいよ結婚式やねぇ」
きっちりとタキシードを着た志摩はため息まじりに言う。
「ホントに俺でいいのか?」
不安そうな顔で燐が志摩の顔を覗き込んだ。
「今ならまだやめられ…」
「あのな,奥村君」
そう言って燐の唇を志摩のでふさぐ。

世界で一番愛しとる。

それが伝わったかどうかわからないが嬉しそうな顔で燐は笑った。

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