小説 | ナノ


▼ その目は、誰を

※Twitterお題「特別になりたい」


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人の感情には疎い方だと思っていたが、案外そうでもないことに最近気がついた。

ベッドで目を覚ましたキッドが窓の外を見ると、まだ空は暗いままだった。裸にはしっかり昨夜の情事の跡が色濃く残されている。シャワーかひと眠りかで迷っていると、キッドの気配を感じてか、隣に寝ているローも身を起こした。いつも気怠げな瞳は、疲労と眠気で更に澱んでいる。
「起こしたか、悪りぃな」
「……別に……」
くわぁ、とローが欠伸してキッドにもたれかかる。珍しいローからのスキンシップに、キッドが静かに驚くのもつかの間、今度は甘い痛みが皮膚に刺さった。じゃれる子猫のようにローが甘噛みしていることに気づくと、収まっていた熱が沸々と煮えてくる。
このままもう一回やるか、とキッドがローの顔を引き寄せたが、すぐに(あぁーー)とため息を吐くことになった。
まただ。また、あの目だ。
仄暗い瞳の中にキッドの赤い影が揺らめく。それなのに、そこにキッド自身は映していない。妙に甘えた仕草もその為だろう。
そして何よりたちが悪いのはロー自身、その癖に気づいていないことだった。
やるせなさにキッドが目を逸らすと、「しねぇのか?」とローが訊いた。
「……寝る」
ベッドの中にもう一度潜り込む。ローも倣うようにキッドの隣に頭を置いた。しばらくすると規則正しい寝息がキッドの耳殻をなぞる。
ーーいつかは。
いつかはキッドもローの特別な存在になれるのだろうか。
それとも、もうなっているのだろうか。
なっていてほしい。
祈りにも似た想いを抱えてキッドも夢の淵へと目を閉じる。
ベッドの中は暖かい。

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