小説 | ナノ


▼ 真夜中の告白

※Twitterお題「先輩と後輩」


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「好きだから、付き合えよ」
そんな台詞が何の脈絡もなくローの目の前から飛び出してきたのは、夜中のキッドの部屋の中だった。
時刻は夜の十一時半。二人でサークルの飲み会に行った後、家で飲み直そうとキッドが言ったのは三十分前。コンビニで買った缶ビールと酎ハイはまだ三分の一も開けていない。グラスに口をつけたまま固まるローだったが、唇の端から漏れたビールの感触で正気を取り戻した。
手の甲で雫を拭いながら、真顔を保つことに神経を集中させる。そうだ、聞かなかったことにしよう。そう思ってテレビのリモコンに手を伸ばしたのに、「てめェが好きだっつってんだろ」とキッドは容赦なくローの配慮を粉砕した。
「ユースタス屋……お前とうとう頭に虫でも湧いたか?」
「んだよ。人が真面目に喋ってんのに喧嘩売ってんじゃねーよ」
チッ、と腹立たしそうな目つきで舌打ちをしてキッドは新しい缶を空ける。何でお前が勝手に告白してきたくせに不機嫌になってるんだ、と若干ローも不満を抱いたが、キッドが距離を詰めてきたので自然と身体が強張った。
「で、てめェはどうなんだよ、トラファルガー」
「どうって何が」
「だから……っ、てめェが俺のことどう思ってんのかって聞いてんだ!」
今にも掴みかかってきそうなキッドに、普段はクールなローでも流石にたじろいだ。
キッドと出会ったのは大学のオールラウンド系のサークルだ。俗にいう飲みサーで、何かと理由をつけて飲み会を開く不真面目極まりない活動を主とするその場所で、ローとキッドは先輩後輩として出会った。真っ赤な髪と瞳をもった大柄な男は、嫌でも目についた。
最初にローがキッドを見たとき、絶対にこいつとは関わり合いにならないだろうし、なりたくもないと思ったものだ。そんな奴と何故だか分からないが話が合って、互いに遊ぶようになり、今こうして告白までされるとなったのだから人生とは分からないものである。
どこで歯車を間違えたのだろう……。キッドと出会った一年半の走馬灯を回想していると、苛立ちが頂点に達したキッドが空き缶を片手で凹ませた。
「あのな、ユースタス屋」
「嫌っつっても無理だかんな」
「強引すぎだろ」
「じゃあ何だよ!」
「……何でお前は俺に告白したのか聞きてぇ」
メコメコッ、と空き缶が更に凹んでいく。キレたのかと思ったが、耳が赤いから恐らくは照れているのだろう。照れるなんて言葉、キッドには似つかわしくないのだけれど。
「……トラファルガーは四年で、俺ぁ二年だろ」
奥歯に物が挟まった物言いでキッドが言葉を続ける。
「あと半年もしたら、てめェは卒業していなくなるから」
その前に言いたかったーーと。
キッドは髪をかきあげながら、片手でまた新しい缶ビールの蓋を開けた。
卒業。
その言葉はローの心にも突き刺さる。
既に企業の内定は取ってある。このまま卒業すれば、来年の四月にはスーツを着て電車に乗ることになるだろう。こうしてキッドと話す機会は無くなる。
「……いつから」
と、ローが呟いた。
「忘れた」
と、キッドが返した。
それから会話はなかった。
気まずさから、ローはテーブルにある缶酎ハイを取った。表面の結露で手が濡らされる。こんなに味がしない酒は初めてだった。それでも、確実に酔いが浸食していく。
キッドは答えを待っている。
ローは、どんな答えを出すことは決まっているくせに、せめてこの缶を空にするまでの間は黙っていようと思っているのだった。


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