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▼ 記憶はいつだって都合がいい

※Twitterお題

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言葉の意味を理解するのにしばらく時間がかかった。
唖然。呆然。
「何ぼんやりしてんだよ、トラファルガー」
固まったまま立ち尽くしているローにキッドが声をかける。「ひっでぇ顔だな」
身体の底が冷えていくのを感じながら、抑えるようにローは、
「ユースタス屋……今さっき何て言った」
「トラファルガーが好きだ」
一言一句違えることなく同じ台詞を繰り返され、逃げようもない現実にローは目眩を覚えた。
何で、そんな今更。
ローが黙ったままでいると、キッドが歩幅をつめてローに近寄った。
筋肉で覆われた太い腕がローの後ろの壁をつき、逃げ場が無くなる。「テメェはどうなんだ?」とキッドが訊いた。
本当のところ、ローだってキッドの事を想っていた。
想っていたが、隠していただけだ。
どうせ叶うわけがないと考えてきたからだ。
それなら、このままひとり秘めたまま静かに終わらせようとしていたのいうのに、この男は。
「お前はよ、」
震える声で言葉を紡ぐ。
「お前は、金髪で、胸がデカくて、赤いハイヒールが似合う女が好みだって言ってたじゃねぇか」
「そうだったっけか?」
楽しそうに唇を歪めて、キッドがローの顔に迫る。吐息が首筋を撫で、嫌でも体温が上昇する。
そうして、ローの耳元で囁いた。

「覚えてねぇな」

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