小説 | ナノ


▼ V

冷たい風が吹いてコスモスが揺れ、広場一面が呼吸をしているようにみえた。
一息、キッドは飲み込むと、「どういうことだ」と尋ねた。
「おれはドフラミンゴを殺しに行くんだ」
突然現れた七武海の名前だったが、キッドは眉一つ動かさず、ローをただ見つめていた。
ローの言葉だけが溢れていく。

「昔な、俺の大好きな人をあいつは殺したんだ」

「復讐だよ、簡単に言えば。あの人の本懐を遂げたいんだ」

「俺の生きている間にしたこと全部が、あの人の残した功績なんだよ」

そこまで言って、ようやくキッドが口を挟んだ。「テメェ……死ぬつもりで行くのかよ」
「そうだ。刺し違えてもいい。俺が殺さなきゃならねぇ」
無表情に立つキッドにローは笑った。笑いながら、どこか心が痛かった。
「ユースタス屋、俺が死んだら祈りの文句でも言ってくれよ。できるなら天国に行きてぇ」
「海賊なのに随分わがままだな」
呆れるぜ、と乱雑にキッドは頭をかいた。それから、「好きにしろよ」とコスモスの花を摘んだ。
「テメェがどこで何しようが勝手だからな。それに、もう決めてんだろ」
キッドらしいセリフだった。ただ、その返事になぜか少しだけローは落胆をした。落胆したことに、自分でも驚いた。
「そんなにことより、手、貸せ」
ほら、とローの空いた右手を強引にキッドは引き寄せた。文句を言おうと口を開けたローだったが、「ほらよ」の一言で固まった。
右手の薬指、橙色のコスモスが咲いていた。細長い茎の部分がうまい具合に曲がっていて、ちゃんとした指輪の形をしている。
「ハッピーバースデー、トラファルガー」
手を離さないまま、「テメェは死なねぇよ」とキッドは付け足した。
「……なんでそんな風に言い切れるんだ」
「俺の予言は当たるってクルーに評判だぞ」
「……どうだか」
「ハッ! 信じてみるだけ面白ぇだろ。それに、案外麦わらの奴が関わってきたりして」
「ねぇよ。馬鹿だな、ユースタス屋は」
知ってるっつーの、と名残惜しそうにローの手を離した。
「俺はもう帰るぞ」
ローに背中を向け、コスモス畑には不釣り合いな図体を揺らしながら、途中、不意に振り向いた。
「生きて帰れよ、トラファルガー。来年はもっとちゃんとしたもんくれてやる」
それだけ言うと、今度は真っ直ぐと歩き去った。
異様に目立つ赤髪を見ながら、泣きそうになるのをどうにかローは唇を噛んで耐えていた。
来るかどうか分からないーー来年。
それなのに。
何かを期待するかのように、右手の薬指が疼きそうだった。

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