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▼ T

陽は沈みかけていた。
久しぶりに上陸した島はどこにでもあるような平凡な街で、ただ平均より物価が随分低く、ここぞとばかりに船員たちは物資を買い込んでいた。あれはどうだ、これはいるか、俺は欲しい、なんてシャチとペンギンのやり取りを背中で聞いていたローだったが、「ハロウィンの仮装にこれはどうっすか、船長?」と、どこぞの教祖が着るようなコートをシャチに聞かれたときは、鬼哭の鞘を眉間に撃ち込んだ。
痛い痛いと騒ぐシャチを冷たく一瞥しながら、
「他に何か欲しいものはありますか、船長?」
とペンギンが尋ねた。
「必要な物が買えりゃいいだろ。娯楽品はあまり詰め込むな」
「船長に物欲って概念あります?」
「ただでさえ潜水艦は狭いんだ。シャチがこの島に残るなら考えんでもないが」
そう言うなり、「酷いですよ、船長ぉ!」と赤くなった額をさすりながら抗議の声を上げる。「俺がいなくなったら誰が今日のパーティーを盛り上げるんですか!?」
瞬間、ペンギンが強烈なドロップキックをかます。顎が砕けそうな衝撃を受けながら、帽子の影からわずかに見えるペンギンの眼光は『お前あれほど秘密にしようってみんなで決めてただろ』と言っていた。
「おい、ペンギン……」
「何でもないですよ、船長。ただこいつの顎に虫が止まっていたので払いのけただけです。それにしてもパーティーって何でしょうね。ディズニーハロウィンパレードでも行きたいんですかね、はっはっは」
不自然な笑い声で誤魔化そうとするペンギンを無視し、「夜には帰る」と告げると、スタスタと歩きを早めた。
「せ、船長!」
「お前らは先に船に戻れ。一人で行きたいところがある」
あまりに急な言動に呆然とする二人に、一度ローは振り向くと、
「俺はパンは嫌いだ」
そう言い残して、真っ直ぐ先へ歩いて行った。
ーーバレた。完全にバレた。
項垂れるペンギンを余所に、「ラッキー。パーティーの準備しちまおうぜー」と呑気にペンギンが起き上がった。


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