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▼ カゲロウディズ【白鬼】

目覚まし時計がけたたましい音で鳴り響く。
急いでケータイの表示画面を確認する。

―8月14日12時―

どうやらまた、
戻ってしまったらしい。

カゲロウディズ

8月15日。
病気になりそうなほど天気のいい日で、することもないから君と公園で駄弁っていた。
「鬼灯はさー、暑いの嫌い?」
ブランコで僕が(聞く)と睨まれて返された。
太陽光線が降り注ぐ中、黒猫を膝に乗せている鬼灯が愛おしそうに撫でていたのが不思議だった。
だって毛皮じゃないか。
一応猫も獣なんだし。
「あなたよりはマシです。とっとと帰れ白豚」
「何だよそれ!僕ってどんだけ扱い低いの!?」
その後も文句を言ったけど軽く鼻であしらわれて悔しかったのを覚えてる。
でも案外嫌いじゃなかった。
そんな態度をとるところも。
「ーー…でもまぁ、夏は嫌いですね」
ふてぶてしく言いながら猫をまた撫でる。
なんだよ。
夏が嫌いなら僕のことはもっと嫌いってことじゃないか。
「……バーカ」
「あ」
小声で呟いた声は鬼灯に聞こえることなく、逆に彼の声で消されてしまった。
「猫が……」
ヒョイと逃げ出した猫がトタトタと道路へと走り去る。

「「危ない!」」

声は同時だった。
鬼灯は猫へ、僕は彼へと。

だって君は飛び込んでしまったから。


赤に変わった信号機へと。


そこからの記憶は、無い。

次に目を覚ましたのは14日の12時頃。
絡み付くような蒸し暑さとやけにうるさい蝉の声。

「ねぇ、鬼灯」
「どうかしましたか?」
もう今日は帰ろう。
左手で彼の腕を掴んで無理矢理引きずった。
嫌な夢だった。
夢なんだ。
だから、夢は夢でなくちゃいけなかった。
「白澤さん…どうして……」
「いいからさ。早く、行こっ!」
とにかくここから立ち去りたかった。
だから必死に離さずに君と歩いた。
「この道を抜けたらすぐ帰れるから」
ほらね、と大通りに出る。
沢山の人が辺りを行き交っていた。
それだけで『現実』なんだと安堵した。

「あ」

鬼灯が後ろで声をあげた。

振り返る。その刹那。


鉄柱が君へ落下してきたんだ。



それからの記憶は、無い。
視界が熱のせいなのかゆらゆらと歪む。
僕は叫んだのかもしれない。
泣いたのかもしれない。

けど全て白く揺らめいて溶けて消えて。


また目が覚めたとき。
目覚まし時計がけたたましい音を鳴り響かせて8月14日の12頃時をしめしていた。

それからは数えていない。
何しろ気が遠くなるほど繰り返していた。
この世界から抜け出したい。
いつしかその気持ちは消えていた。

もし元の世界に戻れたとしたら。
そこでは当たり前に日々が過ぎていくのだろう。

そしたらいつか必ず。
君と離れる日がくるはずだ。
いつまでも一緒などありえるわけないのだから。


それならばいっそ、この世界で巡り続けてしまえばいい。


8月15日。
何億回めの言葉を言った。

「鬼灯はさー、暑いの嫌い?」


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