小説 | ナノ


▼ 有限の夢幻


「貴方みたいな人でも寿命ってあるんですかね」
「どうしたの、急に?」

「いえ、ちょっと」と鬼灯ら言葉を濁し、そこらへんに置いてある急須を手に取る。
透明なガラス製のその中には熱いお湯とお茶の花が咲いていた。
何とは無しに、ぼんやりとそれを見つめていると

「それ清香花楼――チンシャンファーロウ――気に入ったの? 鬼灯」
「えぇ。味も香りもいいですし、何よりこうして花の形が保たれたままというのが凄く興味深いです」
「それな。鑑賞しながら飲めるよう、ガラスのポットに入れてるんだけど割れちゃうんだよね。たまに」

ガラスは急激な温度変化に弱い。
冷えたガラスに熱湯を注ぐと、熱衝撃により、高確率で破損する。
が、それはあくまで普通のガラスの話だ。
それなら答えは簡単。

「耐熱のものを使えばいいのでは?」

そう言うと白澤は「違う、違う」と手を横に振った。
「もちろん、耐熱ガラスのやつでお茶は淹れてる。
 けどね、それでも使い続けると、普通に割れちゃう時ってあるんだよ。
 ――寿命ってやつだね、きっと」
「……寿命……」

ポツリと鬼灯が繰り返すと、白澤は小さく頷いた。

「どんなものにも限りってのはあるさ。ガラスだろうと、神だろうと」

驚いて目を見開く鬼灯に、「そんな哀しそうな顔すんなよ」と白澤はまるで他人事のように笑った。

「僕にだって寿命はある。まぁ、それは他の人や物よりはずっと長いだろうけどね」
「……」
「ふふっ。もしかして、さみしくなっちゃった?」
「調子に乗るな、爺」

はぁ〜? と白澤が不満の声を荒げ、鬼灯に抱きついた。
そのまま柔らかなベットの上に二人して倒れこむ。

「僕の唇に死神が口づけを交わすまで、ずっとお前の側にいてやるよ」
「そんな厨二病的な台詞をドヤ顔で言わないでください。イタイですよ」
「はいはい。じゃあもう何も言わない」

そう言って今度は鬼灯に抱きついてきた。
あっちへ行け、と鬼灯は突き放そうとしたが、いつの間にか白澤は眠っている。

「これだから年寄りは……」

ぶつぶつと文句を言いつつも、そっと彼の唇に自分のを重ね合わせる。
いつかこのやり取りも終わってしまうのだろうか。

花が枯れるように。
ガラスが割れるように。

所詮、この世は限りの有る夢幻

「――その終わりが来るまでは、貴方とこうしていたいですね」

そうして鬼灯も白澤と同じように目を閉じて眠りについた。


だから彼は白澤の口の端がにんまりと上がったのを知る由もなかった。

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