ラスト・ダンス | ナノ


▼ パーソナリティサイド

(修人視点)


「しっつれいしまーす」


 適当な挨拶が聴こえたかと思ったら、屋上の入り口から風紀委員の女が顔を覗かせたのが分かった。彼女が数歩歩いたところで、重い扉が閉まる音が辺りに響く。環の次はこいつか。修人は分かりやすく溜息をつき、こちらへ向かってくる女子生徒を眺めた。彼女は修人の傍までやって来ると、ニッと無邪気な笑顔を浮かべる。


「奥村ー、何度目の逮捕だよ。執行猶予ついてんだよ?」
「……何の罪だよ」
「屋上に入ってはいけません。こ、う、そ、く。見直して」
「お前も入ってる」
「あたしは取り締まる側だから良いの」


 よく言う。職権乱用だ。修人は目の前の女、野崎凛が見回り中以外にも、屋上へ出入りしている様子を目撃している。所詮彼女も修人と同じ、サボり魔なのだ。よくもまあ堂々と、風紀委員などという糞真面目な役職が名乗れるものだ。ある意味感心してしまう。


 ふ、と笑うと修人はスラックスのポケットへと右手を突っ込んだ。確か、飴玉か何かが入っていたはずだ。


「あった……これで今回も見逃せよ、風紀委員」
「お、賄賂ですか。どうしましょうかねぇ」
「言いつつ受け取ってる」
「まあね。悪いことなんてさ、バレなきゃ良いんだよ」
「………………」
「そうやって世界は回っててさ。運悪く見つかった一部の連中が、見せしめとばかりに処罰されんの」
「……そうだな」
「たかが校則で大袈裟過ぎ? あたし」
「さあな」


 会話するのが面倒になり、適当に相槌を打つ。その内沈黙が生まれ、横目に凛の方を見れば修人の渡した飴玉を口へと放っていた。沈黙を作らないようにと頑張る人間は苦手なので、皆彼女のように淡泊な性格だと助かるのに。再び空を見上げると、先ほどよりも辺りは随分と薄暗くなっていた。


「……帰るか」
「あ、そう? あんた芹沢環待ってたんじゃないの」
「何でそう思う」
「この前の放課後は一緒に居たじゃん。それだけの理由」
「……ついさっきまではここに居た。今は多分生徒会室」


 修人が言うと、凛は目をパチパチと瞬かせた。そして一言、生徒会室? と聞き返してくる。だからそうだと言っているだろう。何なんだ一体。無言で彼女の方を見つめれば、大丈夫かね、日菜子……と。誰だか分からぬ女の子の名前を呟いていた。



つづく

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