ラスト・ダンス | ナノ


▼ パーソナリティサイド

(日菜子視点)


 全ての行動はプラスに働いている、か……やはり、彼の言葉は日菜子に勇気を与えてくれる。伊織に言わせれば、極端すぎる、綺麗事だ、なんて文句が溢れ出て来るらしいのだが。それは成長するにつれ、心が汚れてしまっている証拠です。そんな反論を返せば、眉を寄せ呆れられてしまった。良いんだ、日菜子は芹沢環の、あの純粋で力強い言葉が好きなのだから。伊織も放送を真剣に聴いて、心を浄化して貰えば良いのに。


 それにしても、本日は環のコーナーを期待していたわけではないのだが。これは嬉しいサプライズだった。先週の木曜日は三十分丸々クラシックが流されていて、今月から曜日が変わったのだと勝手に解釈していたから。聞き逃さなくて良かった。日菜子の顔からは、無意識の内に笑顔が零れる。


「ほら、ニヤついてないでさっさと帰りなさい。浅倉」
「に……! ニヤついてなんか……大体、私は八坂くん待ちで」
「終わったから言ってる。良いよ、帰って」
「え? いつの間に……」


 日菜子が呟けば、伊織は肩を竦め、余裕のある笑顔を見せる。何だかんだで毎回、時間までには仕事を終わらせてしまうのだ。生徒会長として尊敬する一方で、最初から本気を出してほしいとも思う。これは我が儘なのだろうか。日菜子はモヤモヤした気持ちを抑えつつ、机へ置いていた鞄を手に取った。


「駅まで一緒に帰ります?」
「まだ鍵閉めが残ってる。ほれ、行った行った」
「別にそれくらいなら付き合いますけど……」
「今の時期は、まだ日が沈むのが早い。夏にお願いするよ」
「あ……分かりました」


 疎ましがられていたわけでは無いのだと察し、素直に頷く。伊織がたまにしてくれる"女の子扱い"は、結構嬉しい。普段は単なる雑用係としか思われていないから。きちんと仲間として思ってくれているのかな、と感じて優しい気持ちになれる。


「……いつまでニヤついてる。放送は明日もあるから、それまで取っておきなさい」
「だ、だから、この顔は生まれつきなんです!」
「はいはい」


 投げやりな対応。きっと聞いてすらいない。これ以上何か返せば、それこそ本当に疎ましく思われてしまうので、今日のところは帰ることにしよう。お疲れ様です、そう言って会長の席から離れた時、生徒会室の扉がノックされる音が聴こえた。思わず足を止める。こんな時間に誰だろう。そのノック音は当然伊織にも聴こえていたようで、どうぞ、という彼の声が部屋に響いた。


 失礼します。開かれた扉から入って来た人物を見た時、日菜子は自身の心臓が止まってしまうのではないか。そう思った。

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