ラスト・ダンス | ナノ


▼ パーソナリティサイド

(環視点)


「お疲れ様です」
「おー、お疲れ環。また明日な」


 同級生の挨拶に笑顔で応え、放送室を後にする。本日のラジオ放送も無事に終わらせることができた。しかし。問題は明日だ。本来ならこの放課後は、環が受け持っている語りのコーナーを放送する予定ではなかった。今月は、火曜日と木曜日をクラシック垂れ流しの日にしようと、先月のミーティングで決めたばかりだったのだ。そして、今日はその木曜日。せっかく音楽担当が、お気に入りのCDを持ってきてくれたというのに。機材の調子が悪いのでは、それを流すことは叶わない。


「明日喋ること、ないな……」


 溜息を一つ落とし、友人がふけているであろう屋上へと向かう。彼のサボり癖には慣れっこだ。何処に居るのかは分かっている。環は上へ続く階段へと足を掛けた。


「聖夜祭は女子にとって、バレンタインよりも大事なイベントなんだからね!」
「恋愛脳の奴らにとっては、でしょ」


 後ろの廊下からは、女子生徒二人が聖夜祭について話しているようで、その声が聴こえてくる。聖夜祭、か。放送部も何か出し物を考えた方が良いだろうか。


 そんな思考は、扉を開けた拍子に感じた、春風の肌寒さによって吹き飛ばされてしまった。


「寒っ……あ、居た。修人ー」


 外に出る。背中を柵に預け、空を眺めている友人の姿が目に入った。気付いているのかいないのか、声を掛けても無反応だった為、環は彼の方へと近付いた。目の前まで移動すれば、さすがの友人も顔をこちらへと向けてくる。


「やはり此方でしたか」
「お前誰」
「親友に対してそれはないでしょう。奥村修人くん」
「百歩譲って知り合いだな」
「またまた」


 苦笑いしながら言うと、友人・奥村修人はチッ、と小さく舌打ちした。しかしこのようなやり取りはいつものことなので、特に気に留めず彼の隣へと並ぶ。


「放送終わったんだろ。帰らないのか」
「お、聴いててくれました?」
「そんなわけない。放送部のお前がここに居るってことは、今日の活動は終わったってことだ」
「修人も放送部じゃないですか」
「俺とお前は違う」


 そう呟くと修人は、再び灰色がかった空を眺めた。言葉遣いや態度は決して良くはない。けれど見慣れた彼の横顔は、いつだって儚げなのだ。


 お前とは違う、か……確かに修人は表に出たがるようなタイプではない。だからと言って環が目立ちたがりなのかと問われたら、それはまた違うのだが。修人は放送部の中でも異質な存在で、自身のコーナーは持たずに裏方のみを担当している。それだけならばその他大勢いる部員の中の一人なのだが、彼が制作に携わった日の放送は何故か必ずと言って良いほど評判が良いのだ。放送部はそんな彼を離そうとはしない。いくらサボり癖がひどくても。


 そして、環と修人は部内でも最強タッグだと言われていた。


「……用がないならさっさと帰れよ。そろそろ風紀が見回りに来る時間だ」
「音楽を流す為の機器が壊れました」
「……やっとか。前から怪しかったんだ。さっさと生徒会に報告しないからそんなことになる」
「予兆はありましたね。でも、問題は明日からです。今日は俺の持ってるコーナーを前倒しにして、何とか乗り越えましたが……」


 環が言うと、修人はピクリと一瞬反応を見せた。そして空から環へと視線を移し押し黙る。さて、パートナーはこの後どんな提案をしてくれるのだろうか。

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