ラスト・ダンス | ナノ


▼ 放課後の娯楽

(彩未視点)


 そもそも、なぜ今更同好会を作ろうなどと思い立ったのか。友人である野崎凛にそう問われ、彩未は考え込む。彩未だって、本当は以前から部活や委員会に入りたいとは思っていたのだ。しかし、どうしても【何の取り柄もない自分】という先入観が邪魔をして、あと一歩が踏み込めないでいた。彩未は人より少し明るいが、人より少し前向きである、というわけではないのだ。長所を生かし楽しそうに活動する皆が、自分と比べ何倍も輝いて見えたのだ。


 ――そして、もう一つの理由。


「聖夜祭?」
「うん! 二年に一度、この学校で行われる一大イベントなのです!」
「知ってる。で、それがどうしたのさ」
「そこでラストにさ、フォースダンスするんだって。しかも当日までに、パートナーも自分達で決めてなきゃいけないんだって!」
「……ふーん?」


 意気込んで凛へと伝えるも、どうにも反応が悪い。「何言ってんだこいつ」とでも言いたげな顔をして、彩未の方を見つめ返してくる。もう、分かってないなあ。


「今日休み時間にね、その話題が出たんだよ。聖夜祭の。それでフォークダンスの話になった時、彩未はパートナーどうするのって言われて」
「うん」
「フォースダンスのことは知ってたけどさ! 皆が皆彼氏が居るわけじゃないし、別に焦ってなかったんだよ。でも皆は、部活とか同好会の繋がりで、独り身は独り身同士で組んで、あぶれないようにペア決めし始めてるんだって!!」
「……うん」
「そんなの聞いてないもん! え、何の繋がりも持ってない私ピンチ? みたいな!」
「……それで同好会を作ろうと」
「うん!」


 そう。これこそが彩未が今になって、同好会を立ち上げようと思ったもう一つの理由なのだ。天然馬鹿だと言われ続けてきた彩未だって、人並みの羞恥心と焦燥感は持ち合わせているつもりだ。聖夜祭は二年に一度しかない特殊な行事の為、皆の気合いの入れようは半端ではないはずだ。そんな場所で恥などかきたくないし、何よりも心から楽しみたいと思う。終わり良ければ総て良しなんて言葉もあるくらいだし、ラストのフォークダンス次第で、良い思い出にも嫌な思い出にもなりかねないイベントなのだ。


 さすがに凛も分かってくれただろう。期待を込めた目で彼女の方を見れば、小さく溜息をつかれた。


「あのさ、いくつか突っ込み良い?」
「来い! 全て論破してやるっ」
「聖夜祭が行われんのは十二月。今四月。気が早すぎ」
「早めに行動して何が悪いんですか!」
「あともう一つ。今まで部活にも同好会にも委員会にも所属して来なかったような連中が、雑談同好会なんてふざけたもんに入るとは思えない」
「か、勧誘とか頑張れば何とか……!」
「最後に。繋がりがないって言うけど、あんた従兄弟がいるじゃん。あいつに組んでもらえば良いんじゃないの」
「い、伊織は……」


 伊織は、私とは別に、生徒会っていう繋がりがあるもん。そう小さく呟けば、凛は目を丸くする。生徒会には彩未の友人でもある、日菜子という可愛い女の子がいるのだ。わざわざ従兄弟である彩未を選ばずとも、書記の日菜子がいる。二人を天秤にかけた場合、伊織は彼女の方を選ぶに決まっているのだ。


「……会長はどう思ってるか知らんけどさ、日菜子の方はあいつと組むつもりはないと思うよ」
「へ? 何で?」
「日菜子は好きな人いるから、そいつと組みたい、なんて思ってんじゃないかな」
「ええ!? 聞いてない、そんな話! 日菜子ってば凛に相談して、私には黙ってるなんて!」
「あたしも相談されてないよ。ただの勘」
「か、勘〜? 相手も分かってたりするの?」
「まだ話したこともないみたい。今スピーカーの向こう側に居る人だよ、多分ね」
「あはは、何それどういう意味?」


 "十七時半になりました。本日の放送は以上となります。皆さん、気を付けて下校してくださいね。二年C組、芹沢環がお届けしました"



つづく

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