ラスト・ダンス | ナノ


▼ 放課後の娯楽

(凛視点)


 "プラスとプラスを掛け合わせるとプラスになります。マイナスとマイナスを掛け合わせるとプラスになります。僕らの行動は常に、プラスの方向へと進んでいるのです。正しい答えなんて分からない、後悔するかもしれない。自分の行動に疑問を持ち、失敗を恐れ、躊躇してしまうことってないですか。大丈夫です。その行動も、いつかは分からぬ未来への自分に、プラスの力となって働き掛けてくれることでしょう。"


 スピーカーから放送部によるラジオ放送が流れてきた。もう十七時か。毎日昼休みと放課後に流されるこのラジオ。クラシックを永遠と流し続ける日もあれば、今のように放送部員がパーソナリティとして、生徒へ語り掛けてくることもある。何にせよ、全ては彼らのさじ加減で決まる自由なラジオだ。放送時間も決まっているため、生徒だけでなく教職員も時報代わりに利用している。


「退屈だなあ」


 風紀を乱す者が居ないか調査する為、いつものように校内をうろつく。放課後の見回りというやつだ。こんな面倒な任務を課せられるなんて、風紀委員になどなるもんじゃない。そもそも凛は立候補などしていないし。更に言えば、委員会決めの際のホームルームにも参加していない。テスト後の解放感からか、屋上で眠ってしまっていたのだ。所謂サボりというやつだ。


 ――ま、その場に居なけりゃ押し付けられますよね。


 風紀委員なんて面倒な仕事ばかりだし、進んでやりたい者など居るわけがない。サボりの代償は大きかった。そんな奴が風紀の乱れを調査だなんて、これはもうお笑いだ。


 凛は自虐的に笑うと、早く終わらせる為に歩くスピードを上げた。すると、前方に見知った後ろ姿が。凛は知り合いが階段を下りてしまう前に、その肩を掴んだ。


「彩未じゃないの。何してんのさ」
「ちょ! びっくりした!」
「お化けでも見たような顔するなし。失礼」
「あはは、凛はお化け並みに神出鬼没だけどね〜」
「まあね。で、帰宅部で委員会にも所属してないあんたが、学校残って何してんの」


 捕まえた友人、八坂彩未へと問うてみる。すると彼女は眉を下げ笑い、生徒会室行ってた、とだけ答える。生徒会と言えば、確か彩未と顔も性格も全く似ていない従兄弟が会長を務めていたはずだ。彼に会いに行っていたのだろうか。


「ふーん、何か用事?」
「うん! あのね、新しく同好会を作ってもらおうと思って、交渉してたんだ!」
「ほほー? スポーツも勉強も嫌いな彩未が同好会とは」
「スポーツも勉強もしないよん。申請したのは雑談同好会だから」
「………………」


 一瞬の沈黙が生まれ、とりあえず「馬鹿なの」と言っておく。彩未は頬を膨らませ「私だって青春を謳歌したいんだもん!」と恐らく心の声を叫んだ。それにしたって雑談同好会はないだろう。あの適当に見えて案外上手な会長が、許可するとも思えない。


「却下されたでしょ」
「されてない! 活動内容と目的をレポートにして出せば、考えてくれるって言ったもん」
「遠回しに却下してんじゃないの、それ。一行で終わるっしょ」
「考える!」


 活動内容が雑談で、目的が青春の謳歌。そんなもの、いくら考えたところで文字数は伸ばせないだろう。後先考えずに行動するから、最終的に自分の首を絞めることになるのだ。凛が言えたことではないかもしれないが。……まあ、目的の部分は掘り下げることができるかもしれない。

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