幼なじみの男女は今日も荒野を並んで歩く。
ショットガンを持って軽快に歩いていた名前が、ふと首を捻って難しそうな顔をし始めた。
「……んー…」
「あ?どうした?」
「…ねぇブッチ、やっぱ私髪の毛伸びてきた?」
「そうだなぁ…最近邪魔そうにしてたもんな」
「よし!切って!」
「此処でかよ!?もう少し歩いたらリベットシティに着くからガマンしろよ…」
「いーやージャマだって思ったら急にジャマになってきたー切ってー切ってったらー」
「だーっもう分かったからそこ座れ!」
「ありがとう理容師様々超大好き!」
「はいはい良いからじっとしてろー」
丁度人ひとりが腰掛けるほどの岩に名前が座るとブッチは手早く道具を取り出す。
腰までは行かなくても、ミディアムくらいには伸びた名前の髪に手櫛を入れながらふと彼は複雑な表情になった。
「好き勝手伸びてるわ痛んでるわ…お前も女ならもう少し気ぃ使えよ…」
「気ぃ使ってたらミュータントの一匹も殺せませんー」
「はぁ…」
「うん、よし、近くにレイダーの反応なし」
「は!?今調べてたのかよ!?いや、つか俺がちゃんと見てあるっての!」
「えっさすがブッチ!頼りになる―!」
「……いつもながらツッコミが追いつかねえ。で?どれぐらい切ればいいんだ?」
「あっ、えーと…耳隠れるくらいでお願いしまーす」
「ん。…ちょうどこっちで会った時ぐらいか。オーケー」
迷いのない動作でブッチは名前の髪に鋏を入れる。
広大な荒地で、一組の男女が散髪しているとはなんと奇妙な光景か。
それでもなんとなくお互い違和感を感じないのは、付き合いの長さからであろうか。
「…私さーブッチと会った時すっごい嬉しかったんだよ。無事だったんだっていうか、知り合いに会えたっていうか」
「お前知り合いなら結構作ってんじゃねぇか。ラジオのDJとか」
「もう、そういう知り合いじゃなくて!幼馴染みに会えたんだから倍嬉しいって話!」
「あーそうかい」
「うん!」
そうしてふと、そっけない態度を取ってしまった自分にブッチは後悔した。
仮にも自分は昔―好きな子ほどいじめたい精神で―彼女を散々いびっていたというのに、こうも堂々と「会えて嬉しい」「幼馴染み」と言われてしまうと男としては嬉しいよりも照れが勝ってしまうものだ。
「…あの、さ」
「んー?」
「あん時から、うちのおふくろがウルセーんだ。名前にお礼して、名前は良い子だ、って」
「…101を出る時?」
「ああ…」
「そっかぁ…私もギリギリだったし寧ろ申し訳なく」
「も、申し訳なくなんかねぇよ!お前のおかげでおふくろもオレも生きてんだぜ!?」
声を荒げた拍子にブッチの手が止まる。それを見て名前は振り返ってブッチを見た。
「…ブッチ?」
「わ、わりぃ…ってそうじゃねぇんだ。その…なんていうか。オレ………お前の傍に、いるから。その…どこ行っても、絶対」
ブッチの瞳には確固たる決意が見て取れる。
母親を救われ、争いが起きて、小さな自分の世界を出て、広大な世界を見て、独りになってしまった幼馴染みの少女と歩み出した。
孤独な世界に放り出されても、誰かが隣に居てくれれば。そんな小さな事に気付いた決意。
「…うん。ありがとう。じゃあ私もブッチの傍にいるね」
「お…おう…。…あっ、いや、てか、こんな話したいんじゃねーんだよ、ほら、座れ!まだ仕上げが終わってねぇんだ!」
「え!?こんな綺麗に整ってたからもう終わってるのかと思ったよ!?」
その言葉にブッチは笑いながら、手を動かし始めた。それにつられて名前も笑う。
幼なじみの男女は今日も荒野を笑って過ごす。
このうるわしき世界
(君がいるなら今日も世界は美しい)