『名前――居るんだろう?』

「……っ!ジェット…!」

『俺は…もう、他の脳波通信が聞こえない、お前の声も聞こえないが…
側に、いてやれなくて…すまない…』

「ジェット…やめて、もう…!」

『――…し、て、る…ぜ』

「ジェット――…!!」


「…通信、切れたわ。名前…貴女は」

「ううん、フランソワーズ…私、行くよ。例え会えなくなっても、きっと…此処で立ち止まる事をジェットは望んでない筈だから」

「…ええ。ええ…そうね…」



























「――目が覚めたか」


瞳を開けると其処にはジェットと、その後ろには青空が広がっていた。

上体を起こそうとする私をジェットが無言で抑えつける。
此処は、と言いかけた唇を一方的に塞がれた。――どんなに久しぶりでも、彼とのキスは煙草の味しかしない。


「…さあて、何処なんだか俺にも分からん。…天国って奴か?」


ジェットは膝に乗せた私の頭に口付ける体制のまま、困ったように笑った。

……確か、ジョーと共に核ミサイル共々突っ込んで…それから?
ジェットの言う通り本当に天国?


「お、眠り姫。お目覚めか?」


すぐ側からハインリヒの声が聞こえてきた。
今度こそ上体を起こすと水平線を背にいつもの皮肉な笑みを浮かべたハインリヒが立っていた。


…水平線?

そうだ、何処という以前に…此処が、『どういう処』なのか…私はまだ分かっていなかった。


「っえ!?水…!?」


私達は紛う事なく水の上に立っていた。

ジェットと私が座っているベンチも。目の前にいるハインリヒも涼しい顔で水の上に立っている。

思わずジェットの首に手を回してしまって、ハインリヒがくくっと笑う。


「名前…」


「ジョー!私達一体…」


「どうやらこれは現実のようだな」


「グレート!ピュンマも…!二人とも無事だったんだね…!」


「ん…心配かけてすまなかったな。」


私は2人に向かって駆け出す。
気付けば私だけが長く眠っていたようで、仲間達が集まってきては私を見て安堵の表情を浮かべている。


ジョーが私の肩を叩く。その表情はとても穏やかだ。


「名前。これは…俺達が望んだ世界、みたいだ。けれど世界には問題が山積みで…
だから俺達、もう少し頑張らなきゃいけない」


その瞳はいつもと同じ。正義の炎を灯す意志の強い瞳。
…みんなが私と同じだという、瞳。


「…うん!だって私達…正義の味方、だもんね!」


私がそう答えるとジョーは優しく笑う。



「ところでジョー…貴方が居ない時の話なんだけれど」


「?なんだい、フランソワーズ?」


「…!!!ばっ…!」


それまで大人しくベンチに座っていたジェットがおもむろに立ち上がってその先を言わせまいとする。


「ジェットったら貴方の大切な双子に『愛してる』なんて言っ…」


「うわあああああ!!!!」


しかし時既に遅し。

あの場にいた博士とイワン以外の仲間達が一斉にジェットを見る。
大体はにやにやしていたが――唯一ジョーだけは一瞬で鬼の様な形相だ…。


「ジェット…キミ、本当に?」


「…〜〜来い!逃げるぞ、名前!」


「えっ?ちょっ、ジェットー!?」


「待てっジェット!!加速…」


「おいっ加速装置は卑怯だろっ!」


私を抱いたまま飛び上がるジェットと、修羅のような顔で追いかけてくるジョー。下では仲間達が笑っている。




真っ青になった地球は美しく輝いていた。








世界の果てのその向こう