名前は諸用で政宗の居城に来たものの、肝心の政宗が見当たらない。
侍女に訪ねても朝から居ないとの答えだ。

愛姫か小十郎なら知っているかと思っていたがその愛姫も小十郎も外出中なのだそうだ。


「政宗ー?いないのー?」


一通り回った気がするがやはり何処を探そうとも見当たらない。

ここは一旦出直そうか…と、名前が振り向いた瞬間であった。


「あら…あらあらあら…名前ちゃん?名前ちゃんね?」


「!!?よっ…義姫さま!!!!」


柱の影からひょっこりと現れたのは義姫だった。
気配もなく突然現れたので名前は正直心臓が止まる一歩手前であった。

そんな名前の様子を微塵も気にすることなく義姫はにこにこしている。


「ふふふ、どうしたの?…政宗をお探しかしら?」


「あの、はい…ちょっと用事があって…あっ義姫さまは政宗が何処か」


「ねえ名前ちゃん。そんな事より私とお茶しましょう?それがいいわ…ふふふふふ」


「え?あ、あのー義姫さま…わたし政宗に用が…」


義姫の華奢な手が、そこから込められているとは信じられないような力で、名前の腕をがしりと掴む。


「ね?一緒にお茶しましょう?うふ、ふふふふふ……」


「よ、義姫さま、ちょっ、あのーーー…」


名前は、そのまま義姫にずるずると引きずられて行く。
戦場で剣を振るっている名前が一応抵抗しているというのにその力が弱まることは全くない…寧ろ押し負けている。



「ああ、どうして名前ちゃんはそんなに可愛いの?政宗と同じくらい可愛いわ日本一可愛いわ…そうだ名前ちゃん、今度から私のことは母上って呼んでくれていいのよ?戦なんてやめて私と政宗と一緒に暮らしましょ?そうね、それがいいわ…うふふふふふふふふふ……!」


そして茶室に押し込まれるまでの道中、恐ろしい独り言が聞こえた気がしたが…名前は気のせいだという事にしておいた…。













げに恐ろしきは母の愛
(ええいっまだこの仕事は終わらんのか!母上、なにゆえワシをこのような離れに押し込めおったのだ…!!)