「おい」
「あの」
先に口を開いたのはどちらでもなく両方だった。
その気まずさに高虎と名前はまたしばしの沈黙に戻る。
浅井家で共に過ごした日々。逃亡劇の末に一度は分かたれた道。
今はこうして泰平の世の元、友の大大名になったこの時を祝えていた。
それでも――互いに聞きたい事は山ほどあった。
「………分かった。まずは俺から、聞こう」
「う、うん」
「お前、男は出来たのか」
「ぶふぉあ!!?」
「な、何も吹く事はないだろう!」
「だ、だって、いきなりそれ!?私だって高虎に恋人出来たのか聞こうと――…」
其処まで名前が言って2人はハッとなる。
――もしや自分達は、同じ事を考えているのではないかと。
「…はっきり言うが、恋仲の者など居ない。そんな暇は無かったからな。
だが…泰平の世になった事だ、結婚は…したいと、思っている」
「私も…夢を追いかけて戦ばかりだったから、恋人なんて居ないよ。
…うん、でも…もう、戦なんて、ないし。そろそろ落ち着いてもいーかなー…なんて…」
それとなく目が合うと、互いに顔が赤い事が分かってしまう。
浅井家に居た頃から好きだ、などと――今更言えるような空気でなく。
名前が正座して俯いていると、高虎がおもむろに立ち上がった。
「名前。姉川に行くぞ。長政様と…お市様に、まだ報告しに行っていない」
「……うん!話は…歩きながら話そうか!」
どちらでもなく両方から、手を取り合って2人は歩き出した。
たとえばそれは名前と高虎が最も愛した2人の様に。
とわの空の下
(残された時間は緩やかで長い坂道のごとく)