前を歩く名前の背中は花京院にひどく大きく、遠く見えた。
彼よりは一等身かそれより小さいはずなのに。


「名前」


「なに?」


名前は振り返る。
いつもと同じ優しい顔。誰にも同じ、穏やかな顔。


「足元、気をつけて。この辺は足場が悪い」


当たり障りのない、ありきたりな、彼女を気遣う言葉。
呼び止めてまで言うような気の利いた台詞ではないが今の花京院にとってはそれさえも意味を持つのだろう。


「うん、ありがと!やっぱり花京院は優しいね」


「いや。当たり前さ。」


「じゃあ、手繋いで歩こうよ。こうすれば危なくないよね?」


言うが早いか、名前は花京院に近付いてその手を取った。
右手に宿る小さな左手の感触。拒否するでもなく、なんでもないような顔で花京院はにこりと笑って返した。

そうしてとりとめのない話をしながら、また歩き出す。今度は手を取り合って、歩幅を合わせて。




「名前。城の中には孤独な王子が居てね、ずっと本を読む事に夢中になっているんだ。本の主人公のようにたくさんの友人に囲まれて笑いたいのに城からは出たくない。笑えるだろう?」


「そうかな。私だったらその城の扉を壊してでも王子様の友達になるよ。」


「ふふ。君らしいな」





僕という白い板に君という色が交わる。
それはどんどん白い板をその色に変えてしまった。そうして僕の世界を君の色だけにしてしまうんだ。








ホワイトボード
(背中を見ていたいのに並んで歩きたい)