「――気を悪くしないでほしいが、なんで俺がお前と旅に出るんだ?お前と旅をして俺に何の得があるんだ?」


俺は目の前の――運び屋と名乗った――彼女に問いかけた。

レンズ越しに捉えた彼女の表情は変わらない。思えば彼女は昨日ここを訪れた時から変な奴だった。
最初は馬鹿っぽいかと思ったが意外と学はある。それから腕も立つ。あと足元に…サイバードッグ、を連れていた。ジュリーへ大量に寄付していたのも見たし瞬く間に周辺の子供も懐いてるし噂ではザ・キングスに「チィッース!」されていたらしい。

そして俺との会話で何故かいきなり「一緒に旅をしよう」と言ってきた。誰がそんな話をした。


彼女は一息置いてにこりと笑った。背負ったバンパーソードに釣り合わない柔らかな笑い方だ。


「だってアルケイド、人を助けたいって言ってたじゃない。」


「――ああ、まぁな」


「私、此処に来るまでにたくさん困ってる人を見かけた。些細な失くしものから大きな怪我まで色んな人を見た。」


「……………………」


「でも私1人じゃ限界があった。――此処に来てレックスを預かったけど…ふふっ、レックスは優しいから」


ね?と彼女が傍らの犬に同意を求めると犬は大きく吠えた。
サイバードッグはレックスという名らしい(そういえばキングスの飼っている奴がそんな名前だって聞いたような)


「…なるほどな。お前の目的はよくわからんが、お前が悪い奴じゃない事は確かみたいだ」


「うん。リージョンだとかギャングだとかそういうのではない、それは信じてほしい。目的…っていうのは、まだ…自分でもよく分かってないんだけど」


「此処で籠もって研究しているだけでも仕方ない…か。こうしてる間にも世界の色々な場所で色々な事が起きてる。」


「だから一緒に来てほしい。アルケイドみたいな人がいれば心強いな。
………って、思ったんだけど。…理由に、ならない?」


彼女の瞳は、相変わらず底が見えない。
だがそれはこのベガスへの道程の中で、世界の悪意も善意も見てきた光に見えた。そしてこれからも。

…もしかすればこれは必然だったのかもしれない。彼女の言葉は何故か漠然と、父が残した最後の希望のように思えてしまったのだ。

俺は立ち上がると自然と彼女に笑いかける。他人に笑いかけるなど何年ぶりだろう。


「わかった。お前について行く。…ただしお前が信用に値しない人物だと判断したら俺は抜けるからな」


「…あ、ありがとう!」


真意の読めない人物であるがこの時だけは嬉しそうなのが伝わってきた。足元でレックスがワンワンと吠える。

いつの日かぶりに握るレーザーピストル。護身用でしかないが忍ばせるリッパー。…彼女の場合背中のそれを見る限り、もしもの時の援護はいらなそうだが。


「そうと決まれば早く行こう。…世界にはまだ助けを必要とする人達が大勢いる。」


「…うん!行こう!」















墜落したベルチバードを見つめる彼女の背中を見て、彼女と会ってからの事を思い出す。

彼女との旅は最初に会ったあの時思った通り、無駄ではなかった。

厄介事には巻き込まれるし、時には人に時にはモンスターに殺されかけるし、道なき道を適当に走っては迷子になるしでろくなものではなかった。だが彼女の判断はいつも間違ってはいなかった。

そして…彼女との旅の中で彼女と俺の考えは一緒だと確信した。


「…?アルケイド?」


ずっとずっと自分の中で潜んでいた事。きっと、彼女になら頼める。


「なあ…今いいか?頼みたい事があるんだ」


この世界を変えるのはNCRでもMr.ハウスでも、ましてやリージョンでもない。


「ん?いいよ、なに?」




もしかしたら、1人の運び屋なのかもしれない。俺はそう思うんだ、父さん。










チップは賭けられた
(最期は、もう目の前に)