「ふぁ〜あ…。」


廊下に出ると、自然と大きな欠伸が出る。
昨日も遅くまで特訓だったせいだろう…まだまだ寝足りないようだ。


「や!おはよー名前ちゃんっ」


「あ、おはようカイル。」


エレベーターの前でカイルに会う。
王子でも待っているのだろうか。
いつものにこにこ笑顔で此方に駆け寄って来る。呼んでも居ないのに。


「どうっすかー?食堂行くのにお共連れて行きません?」


「あ、ごめん。食堂で待ってる人が居るから。」


「あ、そーだよねぇ。名前ちゃんには怪盗とゆー立派な好きな人が…」


「はいそこ勘違いしない。ミアキスに決まってるでしょ。あと別に好きとかない。」


「わぁ名前ちゃんたらドラーイ。冗談じゃないかー」


へらへらと笑っているが多分8割本気だっただろう。
自然と怒りのような呆れのような感情がふつふつと沸いてくる。
……一応、カイルに対してではなく。
カイルの発した「怪盗」に、だ。

あの野郎は呼んでも居ないのに神出鬼没で、それでいてどうにもこうにも自分にまとわりついてくる。
勿論これから自分が向かう場所――食堂でも、だ。


「これから食事だって言うのに嫌な事思い出させないでよ…」


「はははーすみませーん。じゃあ、俺は後々行くので。」


「はいはい。先行ってるね。」


手を振るカイルを横目に、エレベーターに乗り込む。
あれが…いやいや、ミアキスが待っていてくれている食堂へと降りていった。







ガチャッ


「あ、カイル殿。おはようございます。」


「おーおはようリオンちゃん。」


「あの…そのような所で何を?」


「…名前ちゃんって結構鈍感だよね、リオンちゃん?」


「は…カイル殿…?」


「ははは、何でも無いよ。それよりさ、早く王子を起こした方が良いんじゃない?」


「はっ…ハイ!!」














――食堂。


すでに人で賑わっている。
自分がそこに着くと大きく手を振ってくれたが、気を抜くとミアキスを見失いそうだ。


「うふふ、おはよぉ名前。」


「…おはようミアキス。」


「レーヴンさんならまだ来てないよぉ?」


「…了解です。」


レーヴン…それが自分にまとわりつく自称「大怪盗」。
…正直な話、そんな事はあまり問題ではない。


ただ一つ、名前が言いたいのは…


「わーはははははははっ!今日も素晴らしい俺様日和だっ!そう思わんか名前っ!」


――出た。
お約束というかなんというか、いきなり目前に現れた一人の男。
黙ってりゃそこそこ良い男なはずなのにそのテンションこそがすべてを台無しにしている気がする。
どうでもいいけどイトウ定食持ったままあまり暴れないでほしい。


「…どうにかしてよ朝からそのテンション。」


「む?なんでだ?」


「…何でと言われましても。」


「なら良いだろう!変な奴だな!!ふはは!」


  変  な  奴  は  お  前  だ  よ


「…む。お前がそこまで言うのなら少しは黙ってやっても良いぞ?」

「え、やればできるんじゃん…」


「ただーしっ!それには条件があるっ!!」


「…はぁ。」


「名前、こっちを向け。」


「う?うん。」


「目を閉じろ。」


「…うん。」


「そのまま上を向いてー」


「…こう?」


何故か言われるままに従うと少しの沈黙ののち。






………ちゅ、とか、そういう感じの。
…音が。
……唇からして。

…なにか、柔らかい感触を味わう。


「……。」


嫌な予感がして目を開けようとした瞬間、唇から何かが離れた。


「…レーヴン?」


「よし、名前の唇頂きっ」


ご満悦といった具合に、指を舐めるレーヴン。
その仕草が少しだけ色っぽいと感じたのは…たぶん気のせい。

――そんな事、よりも。


「…まさかまさかまさかまさかまさか…アンタ…まさか…。」


そうだ。


さっきのは


「きゃーもう!レーヴンさんったら〜いきなりは名前が驚いちゃうでしょ?」


世間一般の


「ふっ、俺様は俺様のやり方があるんだ。」


好き同士がやる


「…もしもーし…名前ー…?」


「…何固まってんだ?」


「私のファーストキス返せぇぇ!!このドロボーカラス!!!」


「!!うわぁっ!!?」


「あらあら〜でもまぁ、自業自得ですよねぇ。」









そのままレーヴンは怒り狂った名前に追い掛け回される事小一時間だったそうです。







闇夜の鴉にご用心?
(あぁもう本当に最悪だ…)(うふふ、でも怒るって事は気にしてるって事ですよねぇ)