ねぇ、君は何か勘違いしてるみたい。
僕は最初から天秤にかけてなんかないよ?







今日も空は青い。
憎たらしい程の晴天だと名前は空を見上げた。
青森ではしばらく見なかった青い空。見る事がなかった照り返す砂浜。
少なくとも今、名前の隣で準備体操をしている男と戦場を駆けた時には見る事が出来なかったカンカン照りのお天道様な訳で。


「あっちゃん…まさか、泳ぐ気?」


「ん?勿論。何の為に水着に着替えたのさ?」


「……4時から、隊内会議なんですけど!」


「おいおい名前…その為のサボりだろ?」


やれやれ…と呆れ顔の友人、青の厚志。
やれやれと言いたいのはどっちだ、と何も言えない名前。

しかしながら、ちゃっかり名前も水着に着替えさせられている所はさすがといったところか。


「あのね、青の厚志君。君は此処に来た目的を覚えてますか?」


「どうしたの、いきなり隊長みたいな事言って。」


「……みたいじゃないの、此処では私が隊長!」


「冗談じゃないか…。目的だろう?ちゃんと分かってるよ、名前と南の島にバカンス。」


「………………。」


頭を掻きながら、真顔で続ける青。
そのケロッとした態度には慣れたつもりでいたが、此処まで来てこの対応には名前も未だにどうしたものかと頭を抱える。
無論照れからくるものもあるというのを青は分かっている。


「まぁ、そう照れなくても良いんだよ?今はどうせ僕達しかいないし。」


「照れてない、勝手に話を進めない!ってこら、海に入るな!逃げるな!」


「あははは!ほら名前、悔しかったら追いかけてきなよ!」


「なっ……!!」


光る海の中から、既に全身ずぶ濡れの青がめいっぱいの笑顔で手を振る。
名前は少し迷った後せっかく着替えたのだから、と半ば諦めで海へと入る。

風は吹いていない。波も立っていない。
少し沖でにこにこ…いや、にやにやと待つ青の元へ名前は急ぐ。
青の元へと着くと、突然その重みが体へと掛かる。


「捕まえたっ」


「わっ!ちょ、あっちゃ…!!?」


青の重みと海水の水圧で少し苦しい。
水は冷たいのに、互いの体は何故か熱く感じる。


「名前…本当は、さっきのは僕の願望だったのかも。」


「……え?」


「…熊本の時からずっとこういう時間が欲しかった。みんなや、大切な友達と笑って過ごせる時間が、さ。」


自分もこんな時間を望んでいたはずなのに、名前の心には青の言葉が棘の様に刺さる。
何故ならきっと、「みんな」だと、大切な「友達」だと、分かっているからだ。
こんなにも近いのに寄り添う事は出来ない心が悲鳴をあげている。
傷つくだけなのに捕らえられた体が離せない。


「……名前…どうして、そんな顔をするんだ?」


「……駄目だよ…」


「…駄目…?」


「それは、私に言う言葉じゃないの…あっちゃんが一番分かってるはずだよ。」


「――っ…名前……」


「ちゃんとあの娘に言ってあげてよっ…じゃないと、私…」


本当は分かっている。自分がこんな事を言っても困らせるだけだと分かっている。
そんな名前の思いと裏腹に青はその手を強める。まるでその思いを否定するように。


「名前、お前は勘違いしてるみたいだから言っておく。僕は最初から名前とあの子を天秤になんかかけてなんかいない。」


「……え…?」


「あの子の事を大事に思っていないかって言われると大嘘になるけど…僕は確かに、名前の事が好きだよ。」


「……やめてよ…そんな、」


「気休めとかじゃない。…僕も分からないんだ。僕は…そんな俺が最低だと思ってる。」


「違うよ…あっちゃんが悪いんじゃない、勿論…あの娘も悪くない。」


「…ありがとう、名前。やっぱり僕は名前が好きだ。これだけは嘘じゃないって言える。こんな僕でも良いなら…」


「良いも悪いも…あっちゃんはあっちゃんだよ?私の好きなあっちゃんには変わらないんだから…もうしばらく、隣に居させて。」


「僕こそ…こんな『厚志』でよければ…。」


「…ところで、あっちゃん?」


「ん?」


「…重いよ。」


「…ちょっとはガマンして。愛の重みは重要だよ。」

「……馬鹿…。」











エターナル・ブルー
(…何か忘れているような)(あっ会議っ!!)(いいじゃないか、今日はサボって。明日二人で女先生に怒られようか)