二人を繋ぐ「らせん」と、二人を裂く警笛。
「ちょっと岩崎!今週の訓練報告は!?」
放課後の廊下。
授業を終え、各々の訓練に励まんとする人々の中で少女が、銀髪の少年を呼び止める。
「あ、忘れてた。あはは。」
「なっ…!岩崎……いつも言ってるけど、アンタには自覚が足りてない!もっと戦士としての意識を高めてって――」
「うんうん、今日はかなりご立腹みたいだねぇ隊長。」
そう言うと、いつものへらへらした笑顔で岩崎は両手を広げた。
その顔はますます名前の精神を逆撫でしたが、ここはぐっとこらえる。
君は知らない、この「セカイ」の本当の事を。
私は知ってしまった、この「らせん」の事を。
「……今日、私の家に来ること。いい?」
「えっ、今日は隊長が泊めてくれるの?あははっラッキーっ」
「報告書が出来るまで眠らせないけどね。」
「えー…仕方ないなぁ…。ま、久しぶりに隊長が泊めてくれるっていうんだから、行くけどね。」
仕方ないのはどっちよ?と内で沸く怒りに耐えながらも、どこか嬉しそうな岩崎に少しだけ名前の心に安らぎが出来る。
それは何よりも、大切な者が其処にいる安心感から来るのだろう。
「じゃあ、暗くなったら校門に―――…」
ヴゥ―――――――・・・・・・
耳をつんざくような警報の音。
校内に響くその音に名前の言葉は遮られる。
『幻獣が出現しました!戦闘員は速やかに――…』
「あぁ…ここのところ毎日だね……少しは幻獣も休めば良いのに。」
ねぇ?と変わらない笑顔を岩崎は向けたが、名前の顔は絶望といっても過言ではないほど曇っていく。
いつもは隊長としての誇りを持った凛々しい顔を隊員に向ける…そんな彼女を見て、岩崎はおもむろにその冷えた手を優しくとる。
「隊長…怖いかい?」
「…………。」
青ざめた顔で静かに首を縦に振った。岩崎は、黙って手を握っている。
響くサイレン。校内は徐々に静かになっていく。
「…戦場では、そんな顔を見せたりしない君が…そんなに怯えるのは、何?」
「…………――。」
名前は、言いたいけれど言えないような複雑な表情で小さく口を開閉させる。
それは言えないコトバ。言ってはいけないコトバ。言っても無駄なコトバ。
「らせん」をまわす者だけが知り得てしまう記憶。
「隊長、僕は――。」
「…言っちゃダメ。」
「――え?」
「……岩崎が死んでも、代わりはいない。誰が消えても、変わらない。今と変わらない日常が流れるだけなんだから……だから…。」
「…隊長……。」
名前はその眼から落ちる涙に気付かないまま、放るようにぽつぽつと言葉を零す。
誰が死んでも代わりはない、変わりはない。
この世界は「らせん」を続けるだけなのだ。
あの言葉を、この警笛を…聞きたくない。
「…名前さん…僕は、」
「…ダメ。」
「僕は………」
「聞きたくないっ…」
「隊長の…名前さんの役に立ちたいだけなんだ。だから…行こう。」
名前が何回も耳にしたあの言葉。
けたたましく鳴る轟音。
また二人を裂く――何度まわろうと。
サイレン
(そして何度も回る先生の言葉)(何度も回るあの笑顔)(どうしたら愛する君を救えますか?)