片方だけじゃ物足りない





「真ちゃん、それ前見えてんの?」

高尾が問いかけると緑間の口…と思われるところが動いたが、何を言ってるかなんてわかりもしない。


なぜそんなことになったのか


高尾はそう思いつつため息をついた。



***



「そんなに包帯ぐるぐるまきにしてたら聞こえるもんも聞こえないし、見えるもんも見えないって。ってかどう巻いたらあそこまでなるんだよ」
「インターネットで調べて一番いいと思ったやり方を試しただけなのだよ」


高尾は再び深いため息をつくが、緑間は首をかしげている。
大体、一人で着るつもりならなぜミイラ男をチョイスした。他にも選択肢なんていくらでもあるだろうに。魔法使いとか吸血鬼とか。

「真ちゃんなら魔導師とかでもよかったんじゃね?おは朝の信者だし」
「当たるものを見て何が悪い?それに、母親に聞いた結果がこれなのだよ」
「へぇ…」


真ちゃんのお袋さんは何を狙ってたんだろうな、とか思いつつ、ぐるぐると巻かれた包帯を頭からほどいていく。


現在五時半
緑間のいっていたパーティーまでは後三十分をきるところだった。

すでに帝光中のバスケ部更衣室にいるので時間の方は問題ないが、この仮装はないだろう。ミイラ男は突っ込まないとしても目や口が隠れていてはコミュニケーションを図れない。

そう思って包帯を巻き直すことを提案し、許可が出たのがついさっき。今はほどくことに集中していた。


「真ちゃんマジ期待を裏切らないよなー。きっと予想できないようなのすると思ったんだよ」
「ミイラ男なら普通だろう」
「巻き方の問題のことをいってんの〜」


くるくるとほどいて首まで来たあたりで高尾はちょっと止まった。そのままほどいていくが…肩辺りまで来ても上に着ていると思われる衣服が見当たらないのだ。



「あ、あのさ真ちゃん…」
「なんだ」
「上、もしかしてきてない…?」
「?包帯を巻いて終わりだろう?」






やっぱりねーーーっ!!!!!!!!!!
マジ期待を裏切らないぜ真ちゃん!!!!!!
でもそういうのは俺と二人きりのときだけにしてくんないかな!?



「真ちゃ、俺のこと試してんの…?俺だって男だぜ…?」
「お前が何が言いたいのかわからないのだよ」
「うん、だよね…わかってるよ…けどさ、けどさぁ…!!!!!」




俺の気持ちも考えて下さいエース様!!





心の中で叫ぶが緑間に聞こえるはずもないわけで。そのまま淡々とほどいて行くことしかできない。さすがにこの場で手を出すわけにはいかないのでとにかく理性がやばかった。



胸とか腰とかもう…!今すぐお持ち帰りしたい…!



けど自分も赤司直々にお誘いを受けたわけで(実はメル友だったりする)、今さら返るわけにもいかず、結局緑間の包帯を巻き直すまで我慢しきった。



よく頑張ったぜ俺の理性



***



「はいしゅーりょー、っと」
「ずいぶんと荒い気がするが…?」
「こんなもんだよ、仮装なんだし。あ、あとシャツはおっとけよ!!」


俺も着替えっから


そういいつつ自分の荷物を手に取る高尾の後ろ姿をみながらシャツに腕を通す。少し悩んでからボタンも一応止めておくことにした。

高尾はさっさっと着替えを済ませている。


「高尾、それは…?」
「んぁ?ああ、耳と尻尾?俺の猫なんだよ」


カチューシャと尻尾をつけて飾りベルトを首に巻く高尾。緑間は座ったまま、ぼんやりとそれを眺めていた。


高尾はそれに気がつくとニヤリと笑う。


「見とれてた?」
「勘違いも甚だしいのだよ」
「ひどっ!!」


泣くぞ!!と喚く高尾に緑間はプイッと顔を背けた。

実際のところ、猫と言う選択肢は高尾にぴったりだ。つり目もそうだが言動や行動も猫にあい通ずるところがある。


「なあ真ちゃん」
「なんだ」
「他のやつら、来ねぇな」
「ああ」


青峰辺りは黄瀬に振り回されているのだろう。もしかしたら黒子や火神もとばっちりを受けているかもしれない。
いつものことであるのだろうからその辺りは赤司も気にしないだろう。


「真ちゃん、トリックアンドトリート」
「菓子ならあるのだよ」


高尾の呟いたハロウィンお決まりの台詞に緑間が飴を差し出す。
高尾はそれを受けとると苦笑いしつつ、飴の包みを開け、口にいれる。


そのまま高尾が緑間の口を唇でふさいだ。


互いの口内で飴が行き交い、甘い味が広がる。


飴が半分くらい溶けたところで、高尾は飴を救い取って唇を離した。




「なっ!たかお…!?」



息絶え絶えといった様子の緑間に、高尾は唇からこぼれた唾液をぬぐいつつ、何食わぬ顔で「抹茶小豆味って…真ちゃん、やっぱ揺るぎねー」と口にした。



「な、なななな何をしているのだよ!!!!!?」
「いったろー?トリックアンドトリート、って」



お菓子も、イタズラも、両方くれるってことだろ?



「大体、真ちゃんが焦らすからじゃん。これだけじゃたんねえって」
「なっ!?」
「今はしねえけど」



ほら、そろそろいこうぜ、エース様。






片方だけじゃ物足りない






(うまくごまかされた気がするのだよ…)
(んだよー、真ちゃんだってものたんねーだろ?)
(俺は間に合っているのだよ)
(征ちゃーん!!!!!!真ちゃんがつれないのだよー!!!!!!)






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