4月20日、穀雨


ドキドキワクワクの同窓会もどきは恙無く始まるどころか、悟が爆弾をかました。もう大爆発。悲惨な事件現場になってしまった。
普通の同窓会なら少しの緊張感と照れ臭さが漂う甘酸っぱいものになるはずだったでしょ。ドラマとかではそうじゃん。そしてラブストーリー始まるじゃん。
怒号の超展開が始まって、私、一体どうなっちゃうの〜! みたいなコテコテのB級ドラマ始まる予定だったでしょ。
高専のメンバーでは始まらないけど、普通の学校だったらあったはずだと思う。

まさか、同級生が自分の親友を手にかけてるとは思わないじゃん。まあ確かに怒号の展開と言えばそうだけど。
本人たちから見ても周りから見ても親友って呼べる関係性だったのに。そんな。
傑は呪詛師になって悟が手にかけた……。
うーん。あまりにもひどい。
今まで観たどんな胸糞悪い映画や悲しいドラマとか救いのない話のどれよりも辛いじゃん。

えー。そんな怒号の展開真っ只中に私はプリンのことを考えながら生特領域にいたの本当にポンコツが過ぎちゃうな。
私がその場にいればなんとかなった! とは口が縦にも横にも裂けても言えないけど、何かしらできたんじゃないかな。その、あの、メンタルフォロー的な? いや、私メンター向いてないと思うけど、漫画ではよくあるじゃん。
傷ついたヤンキーの側にいて心を癒してくれる猫がさ。いやいや。私は猫じゃない。猫にはなれない。100%人間だけど、少女漫画なら、ちょっと落ち込んでいる幼馴染もしくは気になる人に優しく声をかけたことによって始まるラブストーリーが。別に悟とラブストーリーは始めたいわけじゃないけど。
なんだろう。つまり私が言いたいことは、悟のまつ毛の1本分ぐらいの心の支えにはなれたと思うんだよね。
だって、死んだ同級生、危険な任務をしない同級生、自分が殺した唯一無二の同級生よりも、生きてる同級生、危険な任務をしない同級生、自分が殺した唯一無二の同級生、こっちの字面の方が幾分マシでしょ。
どっちの字面も大概酷い気がするけど、まだ後者の方が。

先日、ケロッと悟が傑殺した宣言したけど、絶対に心の傷口開いちゃったよ。古傷が疼いたってやつ。どうしよう。仕方ない。プリン持っていってあげよう。私にはそれしかできない。ついでにコンビニで発売された新商品のスイーツも買っていってあげよう。
私のおやつを買うついでにだけど、きちんと悟のことを考えてレジに持っていったらいいでしょ。

:

談話室の扉を開けて、キョロキョロと周りを見渡す。
あれ、悟いないや。珍しい。大体談話室にいるのに。やっぱり特級だから多忙なのかな。スイーツがダメにならなうちに、冷蔵庫に入れとこう。悟の名前書いておいてあげればいいかな。ついでに可愛いうさぎさんの絵も描いておいてあげよう。疲れた時に見る可愛いうさぎさんほど嬉しいものはないでしょ。
可愛いうさぎさんを描いて吹き出しには“悟のプリン”とかいて、誰にも食べられないように。自分のものには名前を書かなくちゃね。共同スペースだろうが、個人の冷蔵庫だろうが名前を書いておかないと勝手に食べられちゃうからね。誰にって? 私に。
ハーゲンダッツのバラエティボックスも買おうと思ったけど、実家から送られてるだろうから、ハーゲンダッツは買わなかったよ。サーティワンにしておいた。バケツいっぱい食べれるよ。

「!」

うっわ! 悟いた……。普通にソファに寝転んでた。全身黒色だからわかんなかった。
寝てる? いや起きてるね。何度も同じ手を喰らうものか。
しょっちゅうこの手に騙されてきたからね。狸寝入りをかます悟に何度悪戯をされたか。

「悟ー。プリンとアイス買っておいたから、食べてね」

……反応がない。もしかして本当に寝てる?

「虫歯は怖いからきちんと歯磨きもすること」

ほっぺたを突いてみる。反応がない。本当に寝てるの? え、え〜めちゃくちゃ貴重じゃん。ついでに本音も言っとこ。

「辛い時に側にいてあげられなくてごめん。これからは行方不明にならないように努めるね。忙しいのはわかるけど、ちゃんと休むこと」

きっと側にいてもメンターはできなかったと思うけど。同級生にしか分かち合えないものがあったでしょ、当時は。
行方不明になってたのは本当の本当に不可抗力だけど、心配かけちゃったしね。だってあの硝子が泣き崩れちゃうぐらいで、あの悟が私を抱きしめるぐらいだもんね。本当にごめん。心から反省はしてるよ。
悟がショートスリーパーなのは知ってるけど凡人の私からすると睡眠時間短過ぎて不安だからね。

よし、悟への謝罪も差し入れも済んだし、どこに行こうかな。硝子のところにコーヒー差し入れに行って女子会しよーっと! 授業あったかな、いや、あったら医務室に担任が呼びに来るでしょ。

「わっ!」






すごいショックを受けた顔をしていた。感情の動きと顔の表情筋が直結しているなまえだけれど、あの目の見開き方は尋常ではなかった。
僕が硝子にアイコンタクトを送ってしまうほど。七海は信じられないと言った顔で僕のことをみてた。
だって、なまえに聞かれなかったから答えなかっただけで、隠してたわけじゃない。傑を殺したことは。

「死んじゃったのか〜」

驚いた顔をしたのは一瞬で、すぐに我に返ったなまえは僕とお揃いのメロンソーダを一気飲みして、咽せて、店員の手を煩わせていた。硝子はやれやれとなまえの背中をさすっていた。
「た、炭酸が思ったよりもきつかった……! 」と零し、店員にレモンスカッシュを頼んでいて、こいつバカだなとクスリと笑えた。

そのあとどうして傑が呪詛師になったかとか、僕が殺すことになったかとか聞かれる覚悟をしていたけど、なまえは何も聞いてこなかった。なまえは昔からこういうところがある。
ずかずかと人の懐に入り込んでは、肝心で大切で脆いところには触れてこない。
それが寂しい反面、ありがたかった。
表面上はバカばっかりしているが、人のことをよく見ている。それを今になって気がついた。28歳になって。学生の頃はなまえのその心遣いに気づけなかった。

:

なまえが談話室の扉を開けてガチャリと開けた時、僕は起きていた。
なまえは入ってくる音に起こされたと言った方が正しいかもしれない。

悟ー? と間延びした声で僕の姿を探して悪戯心がくすぐられる。
息を呑み込む音がしてなまえが僕の姿を見つけたのが分かった。しばらく僕の様子を伺う気配がするが、僕は黙って寝たふりを決め込む。

「悟ー。プリンとアイス買っておいたから、食べてね」

沈黙。
幾度となくこの手の悪戯をしてきたからもう流石に引っかからないかと思う気持ちもあるが、いやなまえだから大丈夫という謎の確信もあった。

「虫歯は怖いからきちんと歯磨きもすること」

ほっぺたを突かれた。思わず身じろぎしそうになったが、グッと堪える。

「辛い時に側にいてあげられなくてごめん。これからは行方不明にならないように努めるね。忙しいのはわかるけど、ちゃんと休むこと」

それは本人が起きてる時に面と向かって言ってよ。と思ったけど、寝たふりをしている僕も同罪かな、と思ったり。
このままどうやって驚かせてやろうかと悩む。アイマスクを引き上げて実は起きてました。なんていうのも初心に戻っていいかもしれない。それか本当に寝たふりを続けて僕の心の中にしまっておくのもいいかも。
逡巡してはみたが、僕はなまえが部屋に入ってきた時から寝たフリを決め込もうと決めていたんだなと思う。じゃないと、2回目の声かけでなまえを驚かせていたはずだから。

なまえが離れていく気配を感じたが、再度僕のそばまで戻ってきて、頭を優しく撫でた。1回ではなく、2、3回。
僕はたまらず心の衝動に身を任せた。





つい出来心で悟の頭を撫でたら、次の瞬間視界が回っていた。

揺れがおさまって目を開けると私の体は悟の上で抱きしめられていた。
なんだ! やっぱり起きてた! くそ……! あの手この手で悪戯の内容を変えてきて!
いつまで経っても引っかかってしまう! この策士め。

今回も十分驚いたから、もう離して! という気持ちで悟の胸を押すが、そのたびに私を拘束する腕の力が強くなっていって……。なんで。どうして。もうちょっぴり苦しいレベルだよ。
ギブギブ! ちょっぴりどころか、しっかり苦しいです! 息も絶え絶え! 悟ー! ち、力を緩めてくれー!

「ぐ、ぐるしい、よ。悟」

悟の厚い胸板に向かって声を出す。うぐぐ、力が強すぎる。
もしかして、寝ぼけている? そういう可能性あるよね。え、やばい。やばいよ。そうなったら私、悟が起きるまで、自分の酸素か確立するための闘いが終わらないじゃん。どうしよ。悟! 悟ー! 起きてー! 助けてー!

どんどん、と悟の胸板を何度か叩いて叩いて悟はやっと身を起こしてくれた。いや、身を起こす前に私を拘束している腕を解いてくれればよかったよ。
そのまま解放してくれるのかと思ったら私を強く抱き締めていた腕は腰回りに移動して、悟の頭は私の肩に乗せられてぐりぐりと押し付けられた。首筋に当たる髪の毛がこそばゆい。

いやー。もう十分驚きに驚きを重ねてもらいましたし、ちょっぴりどころかだいぶドキドキしました。命の危険を感じて。悟の悪戯は大成功しました。だからそろそろ離してほしい。お願い。

「絵面が援助交際」

「ははっ」

いや、ははっ! じゃねー! 笑うところじゃない! これ、先生が生徒に手を出してるように見えるからね! 悟! 倫理習ったでしょ!

「僕となまえは同級生じゃん」

「11年前はね」

「じゃあ、なまえのあしながおじさんになる」

「高専は学費いらないから。任務報酬で私生活も賄えるよ」

ぐりぐりと悟は私の肩に再度頭を擦り付ける。なんだなんだ? 今日は甘えんボーイなのか? 今日はというかこんな悟は初めてだから緊張する。これが11年の時の流れか。いや、関係あるかな?

「僕、ずっとなまえのことが好きだった。今も変わらず好きだし、何ならどんどん好きになってる」

えっ?
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