僕とアレと猛獣の話。





注意※割と下品






「アッシュはそんなの見ないわ!」

僕らはいつもの四人とベルちゃんで、飲み会を開いていた。
会場はベルちゃんのマンション。
部屋はさすがオシャレで、なんだかクッションで寛ぐ猫のシャトンまでオシャレに見えた。


始めは僕らの新曲のことやサナエちゃんのギターの弾けないコードの事を話したり爽やかな雰囲気だったんだ。でもさ、年頃の男女がアルコール入ってきたらどうしてもこう会話がピンクな方にいくじゃない?だからさ、きっかけはなんだったか…たしか最近の少女マンガってエロいよねって話からだったっけ。ちょっとした猥談になったんだ。
いやでも好きな女の子…サナエちゃんが隣に座ってるからそうキツイ感じのじゃなくて、こう、アダルトなビデオとかの話に。
やだーレオ君たら!なんて可愛い反応を堪能しつつ、なんだかそれらしい雰囲気になってきたところで、ベルちゃんの片思いの相手、アッシュ君を話題に出したのがまずかった。
スギが、アッシュ君はDeuilの中で唯一持ってそうだよねーなんて言った瞬間。ベルちゃんは机をバン!と叩いて怒った。そして冒頭のあの言葉。

「いやでもさあ。男は狼だよ?」
「アッシュは可愛い狼なの!そんな事しません!」

ベルちゃんの片手にはワインの入ったグラス。
…酔ってるんだ、これ。

「ま、まあ優しいし、ほら、誠実でピュアなイメージあるし!ね、サナエちゃん!」
「そうね!リエちゃんの言う通り、アッシュ君は例外かもしれないよね!」

二人のフォローで落ち着いたのか、ベルちゃんはにっこり笑った。

どうもベルちゃんはアッシュ君を神聖視しすぎている気がする。いや、気じゃないな。
枯れた老人じゃあるまいし、アッシュ君だってれっきとした男だ。さらに言えば、狼男なんだから普通は、こう、肉食なイメージが強いと思うんだけど。

「アッシュはフワフワで、爽やかで、優しいの。えっちなビデオなんて見ないの!」


なんか王子様を信じる子供みたいだ。ベルちゃんは大人びていると思っていたからちょっと意外。今だって火照った顔と短めのスカートから無防備に投げ出された綺麗な脚がたまらなくそそるのに。
もしかして処女だったりして…なんて思ってる僕の前で、スギが誰かにメールを打っていた。

「あれ?スギくん誰にメール?」
「んー?ちょっとね。」

ちょっと不機嫌になったリエちゃんの手を取って、スギが笑う。
「大丈夫!僕がリエちゃん以外の女の子にラブメール送るはずないじゃん!」
「…もー!やだぁ!」

…やってろこいつら。




それから暫くしてチャイムが鳴った。

「こんな時間に誰?」
「宅配便…な訳ないよなぁ」

インターホンを覗いた瞬間、ベルちゃんはキャッ!?と言って飛び上がった。

「どうしたのベルちゃん!…あ。」

ベルちゃんに続いてインターホンを覗くとにこやかに笑うアッシュ君の姿があった。



「ちょうど仕事終わって飲みたかったとこなんスよね。声かけてくれてありがとうございますスギさん!」

「いーよー。人数いた方が楽しいしね!」

さっきのメールの相手はアッシュ君か。
スギはニヤニヤ笑いながらベルちゃんを見ていた。ベルちゃんは思いがけない来客に動揺し、アッシュ君が持ってきたビールに間違って氷を入れそうになっていた。



「ところでさあ。アッシュ君てAVとか見る?」

「ぶっ!?」

その話題出すか!?スギはまだニヤニヤ笑っていた。なんとか吹き出さなかった焼酎をぐっと呑み込んで、きょとんとしたアッシュ君を見る。

「AV 、スか。またなんで…」

「ん?いやさっき話題にあがってさ」
「!ちょ、ちょっとスギくん何言ってるの!?」

リエちゃんが慌ててスギを止めようと肩を叩いた。
ベルちゃんはというと、驚いて口にしたクラッカーで噎せていた。弾みで肩からワンピースの紐が落ちた。なんか結構ベルちゃん無防備なんだよね。これで経験無いとか最高。

「ははは、何話してたんスか」

アッシュくんは陽気に笑って、ベルちゃんの背中を撫でた。ついでにさりげなく肩紐も戻してやっていた。ベルちゃんはありがと、と笑った。多分「やっぱりこんなに優しいアッシュが見るはずないわよね!」とか思ってそう。


「まあ見るッスよ。」

しかしアッシュ君から発せられた言葉はベルちゃんの希望とは違った。途端、ベルちゃんはえっ!?と叫んだ。

「……アッシュ、嘘よ、ね?」

ひきつった顔で微笑むベルちゃんの考えをよそに、アッシュ君はビール瓶片手にさらりと答えた。

「いや見ますよ。ははは。男ッスからね。見たことない奴なんていないんじゃないスか?」

そう言って酒を仰いだアッシュ君はなんかかっこよく見えた。てか戸惑わないんだ。

「だよねー!ほら、ベルちゃんアッシュ君だって観るって!観るのなんて普通普通!女の子と観ることもあるし!ね、リエちゃん!」
「もーやだー!スギくんたら!」
「…そんな!アッシュが…」
「ははは、見てすいません。ところでベルさんは見たり…」
「しないわよ!ばかっ!」





そうしてショックを受けたベルちゃんを余所に飲み会は盛り上がった。
その後の話題には下ネタは出なかったけど、ベルちゃんはしばらくアッシュ君の隣で固まってたと思う。思う、ってのは僕の隣に座ったほろ酔いのサナエちゃんを盗み見るのに忙しかった訳で。

夜中1時を回った頃、リエちゃんが席を立った。

「あ、ごめん私帰るね!明日早くて…」
「じゃあ僕が送ってくよ」

スギがそれを口実に立ち上がる。俺はそんなスギの肩を抱き、耳打ちした。

「…スギ、変なことするなよ?」
「……」

無言プラスいい笑顔で去っていったスギに石でも投げたい気分だったが、サナエちゃんからの一言でそれどころじゃなくなった。

「ねえレオくん、私も送ってくれる?」




「じゃあお邪魔しました!」
先に下のフロアで待っているサナエちゃんの元に一刻も早く駆けつけたくて、僕は急いで靴をはいた。

「楽しかったッス。また飲みましょう!」

「じゃあまたね、気を付けてね。」

ベルちゃんとアッシュ君が玄関先まで見送ってくれた。

「いやあー気を付けるのはベルちゃんでしょ!飲み過ぎてさっきみたくなっちゃだめだよ?」

上機嫌になりすぎた。僕はさっきのベルちゃんの失態をアッシュ君に喋ってしまったんだ。



「酔って怒鳴った?そんなことしちゃ駄目じゃないスか。」

「う、ごめんなさい…」

「さっきだってあんな無防備だし…まったくベルさんは意外と悪い子、ッスね。」

ん?アッシュ君の声がワントーン低くなった。
微かな変化に戸惑いつつ、まあいいかと帽子をかぶり直した。

「あはは、気にしてないけどね、可愛かったし。それじゃあ…」

そう言ってドアノブに手をかけようとした時、目の前のアッシュ君が急にベルちゃんの肩を抱き寄せた。それからベルちゃんの耳元に唇を寄せて…こう囁いた。

「それと…俺も男なんで…そうやって油断してると、喰っちまいますよ?」

そう言ってこめかみにキスをして、ちょっと悪い顔で笑うアッシュ君はさっきまでの爽やかな姿とかけ離れていた。ていうか普段からも想像できないよ。なにこの色気。もしかして酔ってる?
でもびっくりしてその場から動けなくなった僕より、ベルちゃんの方が確実に戸惑っていた。
ベルちゃんは、驚きと恥ずかしさが半々といったところ。羞恥からくる涙に滲んだ目をキラキラさせてアッシュ君から目が離せないまま「そ、そんな…」とか「ご、ごめんなさい…」とか呟いてぷるぷると首を振っていた。
…あーあ。ベルちゃん、耳まで真っ赤にしちゃってる。だから言ったのに。男はみんな狼なんだって。

しかしこのベルちゃんの反応、ちょっとくるものがあるな、とか思ってたら、アッシュ君と視線だけがかみ合った。
その目は「早く出てけ」と命令していた。気がする。
僕は静かに、しかし速やかにその場を去った。
ベルちゃん御愁傷様。あれは、間違うことないハンターの目だ。

そのあとベルちゃんが狼に食べられちゃったかどうか、真実を知っているのはきっとシャトンだけだ。
ああ、僕とサナエちゃんの間?…何もなかった!普通にそのまま帰ったよ。そうだよ!誘えなかったの!
そういえばサナエちゃんと別れて空を見上げた時、満月がやたらと輝いていた気がする。だから多分きっと。ていうかあの二人確実に両思いじゃん…。
てことは今日あの中で一番報われない奴は、いややめよう。考えたくない。
取り敢えず僕は伸びをしてから、狼の遠吠えよろしく「ちくしょー!」と叫んだ。




End


レオ君の性格があまりわからんので偽物っぽくてすみません。
スギリエをバカップルにしすぎた。



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