02 恋文


 そして、翌日の朝。
 義勇は朝食を摂り、そして整容を済ませて初夏の風を感じながら自転車を漕いでいた。義勇は自転車通勤だ。振動に合わせて揺れる自転車のかごの中にはバッグが入れてあり、その中に眠っている恋文。それを出せば、すべてが終わる。
 少しの感傷に浸りながらひたすらに自転車を漕ぎ、勤務地であるキメツ学園の教員専用自転車置き場へ自転車を停め、バッグを持って階段を上がる。教員用の出入り口がべつに設けてあるため、そこへ向かうのだ。
 扉は既に用務員である鱗滝の手によって開けてあり、義勇は周りを見渡し誰もいないことをしっかりと確認し、バッグの中身を探る。そして、中から真っ白な飾り気のない封筒を取り出して一度、胸に抱き震える手で宇髄の下駄箱を開けた。場所はすでに把握済みだ。すると、普段宇髄が履いている上履きの姿があり、大きく息を吸って吐き、そっと便箋を上履きの上に乗せてぱたんと音を立てて下駄箱を閉めた。
 これで、義勇のやるべきことは終わった。後は宇髄がこの手紙を読み、『冨』という人物に想われていることも忘れて、そして捨ててくれればいいだけの話。たったそれだけの、話。
 義勇は自分の上履きに履き替え、バッグを置きに職員室へと向かいついでに風紀委員顧問として忘れてはならない服装チェックの紙が挟まっているバインダーを持って校門へ立つ。そこから義勇の朝が始まるのだ。
 ぞくぞくと生徒が登校してくる中、遠くに宇髄の姿を見つけた。あと数分後かには、あの手紙を発見するだろう。そう考えると手が震える。
 宇髄が徐々に近づいてきて、義勇は何気なく彼の傍へと寄り、強張る顔で挨拶をした。
「お、おはよう、宇髄」
「あー、おう」
 義勇の顔も見ようともせず、たったそれだけを言ってすっと通り過ぎてしまい、何故だか動いた風が冷たく感じた。
 第一コンタクトはこれで終了し、服装チェックを終え校門を閉めたところで義勇の風紀委員の顧問としての仕事は終わる。今日は一時間目から保健体育の授業が入っている。だがしかし朝はホームルームが挟まるため、そう慌てることも無く職員室へ戻ると、無意識に宇髄の姿を探してしまいふと、彼の机を見るとその視線は義勇に向かっており、こんなことは初めてで思わず義勇も見つめてしまう。
 何故、見てくるのだろう。
 宇髄の表情はいつもの明るい笑顔ではなく、どこか何かを探るようなそんな目つきで思わず目を逸らしてしまう。
 もう一度、ちらりと宇髄を見ると彼は未だ義勇を見ていて、慌てて視線を逸らし授業に必要な教科書類を纏めに入る。まさかとは思うが、あの恋文だろうか。考え過ぎだろう。義勇はそう決めつけ、特別教室の鍵を片手に予鈴を聞きながら校舎の一階を目指して歩いた。
 授業自体は滞りなく終わり、しっかりと施錠して職員室へと帰るその途中のことだった。義勇は一階から職員室の入っている二階へ、宇髄は三階から二階へ下りるところだったらしく、ばったりと出会ってしまい義勇はいきなり現れた美麗な顔に思わず一瞬、見惚れてしまうがすぐに立ち直り黙って職員室へ行こうとすると、すれ違いざま、宇髄にいきなり手首を掴まれ、驚いていると無言のまま引き摺られてしまう。
「う、宇髄!一体、なにっ……」
 宇髄は三階まで上がり、美術準備室の鍵をポケットから出して開け、扉を開いて中へ入って行ってしまう。戸惑う義勇だが、慌てて後を追うと宇髄は準備室に設置してある机の引き出しを探り、中から一枚の白い紙をぺらりと義勇の前に差し出した。
「これ、俺の下駄箱に入れたのお前だろ」
 四つ折りの痕のついたその真っ白な紙はまさしく、昨日義勇が書き上げそして朝、宇髄の下駄箱に忍ばせたものに他ならない。しかし、何故義勇だと分かったのか。それよりも、否定の方が先だ。
「……し、しらない……おれ、じゃ、ない……」
 義勇から出たのは小さな声で、顏からざっと血の気が引いてゆく気がした。こんな言葉では、ハイそうですと言っているようなものだ。額にいやな汗が浮かぶ。手が震える。
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