01 第七官界彷徨


 大して接点も無い相手から食事に誘われ、唐突に言われたこの言葉に、他人はどう答えるのだろう。
 義勇は目の前で薄く微笑みながら、肌に這わされる手の感触に快感を覚えながらぼんやりとそう思った。
「お前の処女が欲しい」
「そうか。分かった」
 こうやって欲しがられたのは三ヶ月前のことだった。それに即答したのは義勇で、そしてその晩、義勇は処女を喪失し初めて他人の手で絶頂を迎えた。
 その手の主は、同じ学校に勤務する美術教師、宇髄天元で義勇は体育教師。普段は会話も交わさない完全たる他人。その他人に食事に誘われ放たれた言葉が冒頭のセリフだ。
 多分だが、女性ならば嫌悪を覚えることだろう。もしくは、あまりにスキモノで宇髄は見た目がかなり整っているので乗ってくる女もいるかもしれないが、宇髄は男である義勇に対して敢えて『処女』という言葉を使い、投げてきた。そして、義勇は頷いた。
 理由は簡単だ。以前から、義勇は宇髄に片思いをしていた。しかし、自分から話しかける勇気もなく、かといって他人で代用するつもりもなかったので、ただ想いだけがしんしんと雪のように心に降り積もり、他の教師たちと楽しく会話を交わしているのをただ遠くから眺めるだけの毎日だった。
 それが、どういった心境の変化か、突然だった。冬の寒さが一段と堪える、そんな日の夜。校内の見回りを終えた義勇が職員室へ戻ると、そこには宇髄が独りで職員用の椅子に座っており、その姿を眼に留めた途端、ドキッと心臓が鳴ったが取りあえず平常心を保ち、帰り支度を始めるとじっとこちらを見ていた宇髄が、何の感情も見えないような抑揚のない声でこんなことを言って誘ってきた。
「あのさあ、今日は金曜だし一緒にめし行かねえ?」
「いいぞ」
 つい、即答してしまった。
 それが、すべての始まりだった。その日、宇髄に初めて抱かれ、男の良さというものをしこたま教えられた。
 きっとそんなことをされなくても、義勇はきっと宇髄にならぞんざいに抱かれたとしてもそれでよかったと言えるが、ベッドの中の宇髄は優しくそして激しく義勇の身体を奪い、痛いこともされなければ、特別義勇がいやだと思うこともされない、相手から快感を引き出すための最大限の配慮を持ったセックスを宇髄とした。
 そして、それから金曜日の夜、義勇はその日の夜だけ、宇髄の恋人として抱かれる日々を送って来た。
 宇髄の車に一緒に乗り、食事をしてからその流れでホテルへ行って抱かれる。宇髄の恋人として。
 学校では、相変わらずただの同僚として接し、二人とも特に交流を持つわけでもなく金曜日の夜だけ除けばただの他人として過ごしてきた。
 それに不服が無いわけではないが、結局、宇髄にとって義勇はその程度なのだと割り切り、金曜日の夜を楽しみに一週間を待ち続け、抱かれる。ホテルの部屋に入ると、途端、宇髄は義勇に対し優しくなる。優しく誘い、優しく抱かれる。時には激しい時も無いことはないが、優しく抱かれる時の方が圧倒的に多い。
 義勇も、その優しさに甘えるよう、少し強欲になって快感に溺れることにしている。そうすると宇髄が悦ぶというのもあるが、大胆に身体を求める快感はすさまじく中毒のように気持ちがいいのだ。
 身体だけになり、宇髄の名を何度も呼びながら絶頂に達する行為は単純に愉しい。この愉悦に勝るものはない。それを、義勇に覚え込ませたのも宇髄だ。
 性に疎い義勇に快楽の何たるかを植え付け、そして性の奴隷に仕立て上げられた。だが、恨んではいない。恨むどころか義勇が恐れているのは、いつ宇髄が飽きてどこかへ行ってしまうかという点だけだ。いつまでも抱き続けてくれるとは考えにくい。すると、いつか宇髄は義勇に飽き、他へ行ってしまうだろう。それが怖いのだ。
 今日は金曜日。宇髄に何もかもを奪われ、そして預ける特別な日。
 ふと時計を見ると、時刻は午後四時を指しており、あと数時間で宇髄と過ごす濃密な時間が待っている。ずくっと身体が疼いた。それを振り払うよう、義勇はパソコンへと向かいプリントの作成に入るのだった。いま勃たせては些か問題がある。
 早く夜にならないものか。宇髄を独り占めできる時間が待ち遠しい。早く後ろにあの極太が欲しい。奥が淋しいと感じ始めたのも最近のことだが、この疼きが厄介で考え始めてしまうと勝手に乳首は硬くなる上、身体がとても敏感になってしまう。ただ身体に服が擦れただけでも感じてしまうことがあるくらいだ。
 慌てて頭を振り、熱くなった身体を持て余しながらキーボードを打つ手を速める義勇なのだった。
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