06 積み木くずし


「なに……?なん、なにするんだ……!痛いだろう!」
「オメー、身に覚えはねえのか。俺を裏切ったっていう、そういう覚えだよ」
「お前を裏切る……?なんのことだ!俺はそんなことした覚えなんて無いし、それにお前にこんなひどいことをされる謂れもない!」
「……嘘吐いてるな。顔に似合わず嘘が上手ぇじゃねえか。いいか、俺はぜってーに許さねえぞ。お前を許すのはホテルに入って、明日の朝、出て行くまでだ。それまでには許してやるが、今はとてもじゃねえがそんな気分になれねえ」
「お、俺が一体なにをしたっていうんだ……!何がそんなにお前を怒らせているのか分からない。本当に分からないんだ!何かしたっていうなら謝る。けど、本当に覚えがない」
「まあ……百歩譲ってそうかもしれねえけど、俺が怒ってること、覚えとけ。後、お前のことが誰よりも好きなのも俺だ。そんな俺を裏切っておいてタダで済むと思うな」
 目の前の宇髄が恐ろし過ぎて、あまりの恐怖に涙が溢れそうだ。一体、宇髄はなにに対して怒っているのか。サッパリ身に覚えのない義勇はただただ首を傾げるばかりで、そんな義勇を宇髄は睨みつけるように鋭い眼光で射抜いてくる。
「……ホテルまでは、フツーに接することにする。言っとくが、努力をしてだ。努力してフツーに接するけど、ホテルに着いたら覚えとけ」
「なにを……そんなにお前は怒っているんだ……?それに、誰よりも俺のことが好きなんて、そんなこと、今まで言わなかったじゃないか。急に、なにを……」
「言葉通りだ。オメーは誰にも渡さねえ。俺のモンだ。俺のモンに手ぇ出しておいて、そのまま済ますと思うか?オメーが悪いんだぜ。オメーが悪いから、俺は怒ってる。……そば屋行くぞ。腹膨らませてホテル行く」
「待って、待ってくれ!俺が悪いって、俺のなにが悪いっていうんだ!俺は相変わらずお前が好きだし、それは変わらないことだ!なのに、お前は勝手に怒って俺に八つ当たりして」
「黙りな。何度も言わせんな。オメーが悪ぃんだよ!テメーの頭で考えてみやがれ!そば屋行く間、ずっと考えてろ!」
「宇髄!」
 言い捨てられたと同じタイミングで義勇は宇髄の名を呼び、身体を伸び上がらせて宇髄の唇を奪うと、強い力で押し返されてしまい、助手席のドアにまたしても頭をぶつけてしまう。
「止せっ!……今そういうこと、されたくねえ。特に、お前からは。……いいから出発すんぞ。腹減った」
「宇髄……」
 車はゆっくりと動き出し、公道に乗る。義勇は泣きたい気持ちを抱えつつ、流れる外の景色を眺めながら考えていた。
 ここまで宇髄が義勇に対して怒るわけ。
 実は、まったく覚えがないわけでもない。木曜日の、昼休みだ。寝込みを女生徒に襲われ、キスされたあの時、多分だが宇髄は見ていたか、会話を聞いていたかどちらかは分からないが、そのことで怒っているのではないか。
 それくらいしか、思い当たる節が無いのだ。裏切ったというワードと、誰よりも義勇が好きだと言ったセリフを組み合わせるとそれしか思い当たらない。あの事なら、キッパリと女生徒に対して断りを入れたはずだ。そのことで義勇に対し怒りを向けられても正直、困るとしか言いようがない。
 だったらそれ以外、なにをすれば宇髄をここまで怒らせずに済んだのか。義勇は精一杯、告白を突っぱねたつもりだ。
 思わず頭を掻き毟りたくなる。完全に八つ当たりもいいところだ。義勇の女生徒に放った言葉を、宇髄は果たして最後まで聞いていたのだろうか。多分、聞いていないからここまで怒っているのだ。キスされた事実だけが、宇髄の中で怒りとなって義勇に向かっているだけで、しかしそれに対してそこまで八つ当たられる理由などない。
 だが、いつもの宇髄に戻って欲しいとは思う。そうなると、ホテルで一体なにがなされるのかが今からでも恐ろしい。
 義勇は額にいやな汗をかきながら、無意識にコートの前を掻き合わせていた。
 晩めしを食べたその後の八つ当たりセックスを拒絶するように、義勇は震える手を叱咤し、必死でコートを握りしめていた。

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