05 積み木くずし


 想い人といった。恋人という言葉が、何故か出てこなかったのだ。本当であれば、付き合っている人がいるだとか、そういったことも言えたはずなのだが何故だか言い出せず、義勇は徐に牛乳パックを手に取り、ストローを刺して口に含んだ。
 結局は、義勇の片想いかもしれない。そう思っているから、想い人という言葉が咄嗟に出た。付き合おうと言い出したのは宇髄だ。そして義勇はそれに対し頷いたが、つまるところ宇髄にきらわれたくないがために言いなりになってるだけの、ただのダッチワイフでしかない。
 ストローを口から出し、そして下を向く。涙は零れなかったが、その代わりに手の中で潰した牛乳パックの中から溢れ出した液体が、義勇の手を汚しそして階段に落ちてそれは地面に吸い込まれることもなく、丸く球を作っていつまでも交わらない地面の砂の上で転がり続けた。

 昼休みも終わり、職員室へと戻るとそこには教師と生徒が何事か話している姿が多く見られ、無意識化のうちに宇髄の姿を探してしまうと、宇髄は職員用の椅子に座っていたのだが、目が合った途端だった。宇髄に思い切り睨みつけられたのだ。元々目元が涼しい男ではあるのでそれがデフォルトであるといえばそうなのかもしれないが、今は完全に鋭く睨みつけられている。口を引き結び、ひたすらに目を吊り上がらせ、光らせながら見つめてきて、そのあまりの冷たく硬い視線に思わず義勇は顔を反らしてしまった。
 震える手で椅子を持ち、腰掛ける。
 何故あんな目で見られなければならないのだろう。なにも心当たりがないからこそ、怖い。とうとうきらわれてしまったのだろうか。
 義勇は背筋を寒くさせながら体育の教科書を開き、仕事に打ち込むフリをして、それでもまだ突き刺さってくる視線に耐えながら、怒らせたわけを考えていた。

 その日の半日は結局、宇髄は一言も義勇と話すらしようともせず、ひたすらに無視されて過ごした。元々、話かけるのは宇髄からなので会話が無いのも最もなのだが、あくる日の金曜日のことだった。
 朝の登校時間、義勇は風紀委員の顧問をしているため、校門で宇髄を待ちつつ仕事をこなしていると、だるそうに宇髄が歩いてきて義勇の前で足が止まった。
「あ……の、えと、おはよう、宇髄」
「……今日、めし行くぞ。約束忘れてねえだろうな」
 朝から開口一番、何故こんな言葉なのか。宇髄はそれだけを言って立ち去ってしまい、義勇はただただ、その場に立ち竦むことしかできなかった。
 そして、その日一日も丸きり無視の状態で、宇髄は義勇の方を見もせずに他の同僚たちと楽しそうに話をしている。それを、義勇は遠くから眺めているしかなく、まるで以前の関係に戻ってしまったようだと思った。
 関わり合いのなかった頃の、義勇と宇髄の関係に。
 淋しくこの日を終えた義勇は校内に生徒が居残っていないか、不審人物や不審物が無いかなどの点検を済ませ、そして職員室へと戻るが宇髄の姿はなく、多分だが既に車に乗り込んでいるのだろうと思われる。
 簡単に荷物整理し、職員室の明かりを落として靴を履き、外へと出ると冷たい風がごうっと吹いてきて義勇の着ていたコートの裾がパタパタと煽られ、寒さに身を縮めながら駐車場まで歩いてゆくと、案の定、宇髄は運転席に座っていたのだが義勇の姿を見つけるなり、車から降りてきて手を引かれ、驚いてなすがままにされていると、運転席側から車内に放り込まれ、その勢いで助手席のドアに頭をぶつけてしまい、頭に手を当てたところで宇髄が車に入り、そのまま伸し掛かってきてドアが閉められる。
「う、ずいっ……!いきなり乱暴だぞ!なにするっ……ん、んンッ!や、めっ……ンッ!」
 抵抗する間もなく、突然あごを引っ掴まれ上を向かされると同時に唇に宇髄のものがぐりぐりと押し当たり、思わず口を開けてしまうとぬるっと湿っていて温かな舌が咥内に入り込んでくる。そのまま舌を絡め取られ、緩く噛まれるとゆっくりと官能と呼ばれるものがやってきて、それに身を任せようとしたところだった。
 唇の端を宇髄の歯が挟み、ぐっと歯が肉に食い込みあまりの痛さに宇髄の背を何度も叩くが、許されることは無く、肉が噛み千切られる一歩手前で歯は外れたが、痛みはしっかりと残る。

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