11 第七官界彷徨


 薄ぼんやりと、意識が暗闇から浮かび上がってくるのを感じ、掛け布団の中、重たい瞼を押し開くと、一番最初に目に映ったのは鮮やかな紅色の瞳で、驚いて思わず二度、瞬きをすると至近距離に宇髄の整った顔があり、じっと義勇を見つめている。
 あんまりにも見てくるものだから、声に出して咎めようとしたところで盛大に噎せ返ってしまい、どうやら絶叫続きでのどが酷使されてしまったらしい。ひどくがさがさしていて、乾いている。手で口を覆い、必死で宇髄の方へと腕を伸ばす。
「……げほっ!げほっはっはあっ……み、ず……みず、をっ……げほっ、えほっ!」
 そのまま噎せていると、ペットボトルを取り出した宇髄は自らキャップを外して煽り、義勇の顔を両手で包み込むと、唇を押し当てられ、口の中にこぽこぽと水が流れ込んでくる。まるで命の水のようだ。必死で義勇はそれを飲み下し続け、350ミリリットルのペットボトルのほぼ三分の二を口移しで飲ませてもらったことで漸く息を吐くことができた。
 再びベッドへ沈むと、またしても宇髄がなにも言わずにじっと穴が空くほどに義勇を見つめてくる。
 義勇も宇髄を見つめると目が合い、宇髄は人差し指の甲を頬に滑らせてきて、指は上下に何度も動き、撫で擦ってくる。
「すべすべ」
 ただそれだけを言って他、特に何も言うことなく、ただただ黙って見てくるだけだ。
 そのうちに羞恥心が湧き、徐々に掛け布団を持ち上げて顔を隠す。
「あ、あんまり……見るなっ……!」
 すると、掛け布団は宇髄の手によってがっと下に降ろされ、再び義勇の顔が露わになる。そして、また見つめてくるのに、いい加減疑問を持つ義勇だ。そして、両腕で顔を隠しバスローブ姿の宇髄に問う。
「なんで、そんなに見るんだ……」
 宇髄はなにも言わず、義勇の手首を両手で掴んで退かし、ベッドに縫い付けられたと思ったら、美麗な顔が近づき、ギリギリ触れ合うか触れ合わないかの位置で止まる。そこでもやはり宇髄は瞬き一つせず義勇を見てきて、疑問を持ちつつも義勇も見つめ返してしまう。
 すると徐に、宇髄が口を開いた。
「――セフレで……いいと思ってたんだけどな。最初は」
「せふれ?せふれとはなんだ」
「セックスフレンドの訳。ただヤるだけの関係。初めは、それでよかった。それだけのはずだったのに……お前が俺の腕の中でだんだん、花が開くみたいにしてなんていうか、性に大胆になってって、キレーになっていくのを見て、自分の気持ちが分からなくなった」
「宇髄……?」
「お前、今日さ、生徒に待ち伏せされて告られてたろ。あれを見て……お前が女といるところを目にして……あれが本来、あるべき姿なんだってなんとなく思ってさ、俺よりも小さくて華奢で、護ってやらなくちゃならない存在を持つのがフツーの男なんだよなってさ、思ったんだよ」
「あの、宇髄」
「いいから聞け。……でも……ごめんな、義勇。俺は、どうしてもそれを許せそうにない。今日お前を抱いて、強く思った。俺、お前のこと……てか、もう今さら俺にこんなことは言えないけど、言わなくちゃ前に進めないから、言う」
「宇髄、ちょっと待ってくれ。あの、俺はっ……」
「俺、お前のこと好きだ」
 その言葉を聞いたその瞬間から、義勇の中から音が無くなった。聞こえるのは、宇髄の声のみ。目の前には整った顔があり、切なそうな表情を浮かべて義勇を見つめている。

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