05 心臓に爆弾


 気づくと、いつの間にか部屋には夜の帳が降りており、徐に身体を起こした義勇は、寝室から出て洗面台で顔を洗う。鏡の中の自分の顔は自身で言うのもなんだがひどい顔をしており、ごしごしと腫れた目元を手首で拭い、麦茶を用意しようとしたところで玄関に放置されていたものが目に入った。
 それは宇髄が買って来てくれたパンと、薬局の袋の中身は鎮痛剤だった。その場に座り込んだ義勇は、山ほど袋に入っているレーズンパンを口に運んだ。
「おいし……」
 また涙が湧き上がってくる。優しさが、愛おしかった。このレーズンパンの量も、鎮痛剤の箱も、今では遠い思い出だ。
 パンを食べ終わった義勇は、麦茶片手に映画を見ていた。唯一、映画で好きと言えるもので殺し屋が主人公の、悲劇でもあり希望とも取れるラストを飾る作品を義勇は気に入っていた。
 殺し屋の男が少女の愛によって変わってゆく姿が好きで、ちょうど悪人に捕まった少女を殺し屋が迎えに行くシーンのところで外から独特な車のエンジン音が聞こえた。それは間違いなく、宇髄の車のエンジン音に他ならない。他の車に比べて重いのですぐに分かるのだ。
 慌てて玄関へと走る義勇だ。鍵がかかっていない。そして、閉める前に扉は開かれ、宇髄が立っており、長い睫毛を伏せさせて義勇の手首を引いた。
「ちょっとだけでいいから……時間、いいか。着替え、頼む」
 義勇はそれに微かに頷き、クローゼットへと向かった。そこで義勇が選んだのは、宇髄に買ってもらった服ではなく、自分で買った胸にワンポイントの絵柄が入った白いTシャツと、そして黒いパンツを穿いて外に出ると、宇髄は既に下に降りていて車に乗り込む姿が見えた。
 義勇も追って車へと乗り込む。
 車内は音楽もかかっていなく、無言でひたすらに車は道路を走る。どこまで行くのかというほどまでに車は公道を走り続け、あるところで急に車が右へと曲がり、そこでエンジンが切られて車が停まる。
 無言で宇髄が車から降りるのを見て、義勇も降りる。その際、宇髄はトランクの中から一つの紙袋を出し、手に提げて車から離れた。
 辺りは静かで物音一つしない。宇髄は無言で歩き、そのまま黙ってついてゆくと突然、開けた場所へと出て、町が一望できる展望台のような場所で宇髄の足が止まる。
 空の星と町の明かりがきれいで、そのまま上下が対になったような空間の中、ぼんやりと景色を眺めていると、後ろから宇髄の声がかかった。
「きれいだろ、ここ。前からお前を連れてきたかった、とっておきの場所。穴場なんだよな。義勇……悪い。俺やっぱ、お前のこと、諦めきれねえわ。昼間……ソープ行って女抱いてきた」
 義勇は音がするほどに思い切り後ろを振り向いた。その完全な裏切りに、滂沱の涙が頬を伝う。
「でも、なんにも満たされねえ。なんにも楽しくねえし、ただ精液出したってだけで、クソつまんなくて……やっぱりお前がいいって、思った。あの、これ……お前の今の服装を見てる限り、もう俺の買った服なんて着ないかもしれないけど……これだけは、渡しておきたくて。春頃、だったかな。まだ全然、話してもいない頃に服屋で偶然、お前に似合いそうだと思って衝動買いしちまった服。はは、いつ渡そうかずっと、悩んでたんだけどまさか今日なんてな。……カーディガンなんだけど、夏場でも少し寒い時にも羽織れるし、秋にも活躍できるから。よかったら、今ここで着てみてくれねえかな」
 義勇は紙袋を受け取り、無言で震える手を叱咤し袋の中からカーディガンを取り出す。それは薄いピンク色とカーキ色の模様が斜めに入った透け感溢れる洒落たカーディガンで、もぞもぞと身に着けてみると、悲しそうに宇髄が笑った。
「思ったとおり、やっぱ似合うな。すっげ、かわいい。……それは、俺からの最後のプレゼント。受け取って欲しい」
 涙腺が、弱る。涙が溢れ出てしまう。

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