04 心臓に爆弾


 その日の夜、義勇は眠れないまま目を擦り、ベッドに寝転んでいた。
 脳裏には屈託なく笑う宇髄がいて、それと同じ場所に義勇を所有物として扱う宇髄がいる。
 宇髄を失いたくない。もう、孤独はたくさんだ。けれど、それと同じくらいに宇髄の放った言葉に反発する自分もいて、いい加減ベッドに寝転んでいることにも飽きた義勇は寝室から出て、グラスに水を汲んでソファへと座り、ゆっくりとのどに水を流し込む。
「俺は……宇髄のモノなのか……?」
 分からないと思う。確かに、宇髄のことは好きだ。ずっと一緒にいたいと思えるくらいには。けれど、今日の宇髄の行動を考えてみると、義勇の自尊心を傷つけることばかりして、そして平気な顔をしている上、怒ってもきて義勇は自分の気持ちが何処へ向かっているのか、分からなくなってきていることに気づいた。
 そこで、ある言葉が心にぽつっと浮かんだ。
 グラスを傾け、水を飲み下しテーブルの上にグラスを置き、首にかかっているネックレスを解き、手のひらに乗せる。
「……さようなら、かな……。もう、ついていけない。無理だ、宇髄……俺は、もう無理だよ……!」
 目に涙が滲み視界がぼやける。
「さよなら、宇髄」
 義勇は溢れ出る涙を拭おうともせず、殆ど寝ずに一夜を過ごした。
 そして、朝。目覚まし時計が鳴って目が覚め、ほんの三時間くらいしか眠っていないため、ぼんやりする頭で風呂場へと行き、頭からシャワーの湯をかぶり、長い風呂の時間を終え、午前九時にやってくる宇髄を待っていた。
 言うことを、言わねばならない。言いたくもない、別れの言葉。
 麦茶を片手にソファに座っていると、いつの間にか少し寝てしまったらしい。突然の電話の着信音に叩き起こされた義勇だが、どうしても電話に出る気にならない。いつまでも呼び出しの音が部屋に鳴り響き、それでも義勇は受話器を取らなかった。
 すると、今度はインターホンが鳴ったがそれにも出ないでいると、何度も繰り返しインターホンの音が鳴り、ゆっくりと立ち上がって玄関へと、義勇は向かった。そして、扉に向かって声を掛けた。
「ごめん……宇髄、頭が痛くて……今日は、無理」
「義勇?」
「帰ってくれないか。頭が痛いんだ。ひどく、痛くて……」
 義勇がそう言うと、階段を降りて行く音が遠くで聞こえた。どうやら、諦めてくれたらしい。
 残念だと思う気持ちと、安堵の気持ちが綯い交ぜになる。
 またソファへと戻り、体育座りでじっとしていると暫く時が経ち、麦茶の続きを口に運ぶと、徐にインターホンが鳴り、扉の取っ手ががちゃがちゃと音を立てて回される。
 今度こそ、言わなければ。逃げていたって、限界がある。その限界は、今だ。
 玄関まで行き、扉を開けると同時に、宇髄がばたばたと忙しく部屋の中へと入ってくる。
「義勇、お前の好きなレーズンパン、大量に買ってきたぞ。食べられそうか?だったら早く食って鎮痛剤飲めってか、なんだその額の痣……!ひでえじゃねえか!」
 義勇は、大きく息を吸いそして吐いた。
「宇髄……うそ」
「はあ?なにが。何が嘘なんだよ」
「アタマ、痛いって言ったの、嘘。お前の顔が見たくなくて、吐いた嘘……」
「……なんで……」
 義勇は自身の涙腺が弱るのを感じながら、頬に熱い涙を伝わらせ別れの言葉を口にした。
「ごめん……宇髄。俺は、お前とは付き合えない。というより、俺に付き合うといった覚えなんて無い。お前に、そう伝えたことは無いはずだ」
「え?それおかしいだろ。だって、お前俺のこと好きなんだろ?」
「好き……大好き」
「んで、俺もお前が好きならフツー、付き合ってるって」
「俺にはその、普通が分からない。俺は、お前と付き合ってない。付き合えない。……ごめん。これも、返す。これで、俺たちは他人だ」
 義勇はテーブルの上に置いておいた『KILLER T』ネックレスを宇髄に手渡す。
 宇髄はそれを受け取り、拳が震えるほど強く握りしめた。
「分かった。だったら、これからはもう学校では話かけねえよ。俺とお前じゃ話す機会も無いしな。それでいいんだろ?めしの時も独りで、それでいいんだな。抱き合うこともキスも無くなるけど、それでもいいんだな」
 義勇は言葉なく頷いた。
「お前のことは好きだけど、付き合えない。付き合うことはできない。……ごめん」
 一瞬、宇髄の表情が泣き出しそうに歪む。
「うずっ……」
「……分かった」
「宇髄っ!」
 ぱさっと、パンの入った袋とそして薬局の袋をその場に置いた宇髄は、振り向くことなく去っていった。その後ろ姿が、だんだんと涙で滲んでゆく。
 扉が完全に閉まると、義勇は大声で泣き喚いた。離したくない、大切なものが何処かへ行ってしまった。正しくは、自分で離してしまった。
 床を拳で何度も殴りつけ、涙に暮れた義勇は重たい身体を起こし、寝室へと入ってベッドに寝転び、そこでも目が溶けそうなほどに泣き、そのうちにいつの間にか、疲れて寝入ってしまったのだった。

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