03 心臓に爆弾


 そして、車に乗り込むなり静かな宇髄の謝罪の言葉が義勇の耳に届いた。
「……さっき、悪かった。ケツ、痛かっただろ。そんな強く押したつもり、無かったんだけどな」
 咄嗟に、嘘だと思った。思い切り押したはずだ、宇髄は。押したなんて生温いものではなく、跳ねのけた。それが正解か。でなければ義勇があのような転び方をするはずがない。
 義勇は財布から札を出し、運転している宇髄の足の上に乗せた。
「……足りないかもしれないけど、うどん代」
「そこまで拘ることか!?鬱陶しい、なんなんだよ!そんなにいやかよ、奢られることが。そこまでいやか!?……うざってえな」
「うざったい……?うざったいってなんだ。だって、俺はお前に金を払わせる立場にいるわけじゃなくて、だから当然、割り勘なりするべきだと思ってる!それは当り前のことじゃないのか!違うのか!」
「この話は止めようぜ!派手に不愉快になってきた。もうお前は喋るな」
 それから、宇髄は車内の音楽を少し大きくし、無言のまま義勇の住まうアパートへと到着した。
 すると、宇髄は車を駐車場に停めてしまい、運転席から降りてしまう。これには戸惑う義勇だ。
「宇髄……?」
「仲直り、しようぜ。家、上げてくれねえ?」
 しかし、義勇は俯いてしまう。今日はもう独りになりたい。いろいろあったので、疲れているのだ。それに、明日は宇髄が泊まりに来る。そのための準備もあるし、帰って欲しかったが仲直りはしたい。
 暫く考えた後、ゆっくりと頷くと宇髄はそっと義勇の頭に手を乗せて撫でてくる。いつもは嬉しくて、幸せな気持ちになるそれが、今日は心になにも響かない。ただ、撫でられているだけだ。
 そっと、その手を振り払い階段を上り始める。宇髄も後に続いてきて、鍵を使って扉を開けた途端、ぐいっと背を押されて玄関扉は宇髄の手によって閉じられ、その手は義勇の身体に巻き付きぎゅっと抱いてくる。
「義勇……悪かった。だからそんなに怒んなよ。なにがそんなに気に食わないんだ」
「……そんなことも分からないのか!言っているだろう、何度も!」
「デカい声を出すな!なにをそんなに怒ってんだ。落ち着けよ、いいから。ほら」
 そのまま体重をかけて伸し掛かられ、義勇は宇髄と共に玄関に転がると同時に、身体に手が這い始める。
「やっ……!な、なにしてっ、なにしてる!こんな時に!」
「こんな時だからだろ。ほら、仲直りのキスしようぜ。目ぇ瞑れよ。とびきり優しいのしてやるから」
「やだっ!今は、今だからいやだ。今はお前とそういうことはしたくない」
「だったら家に上がり込んだ目的がパーになっちまうだろ。いいか、言っとくがオマエは俺のモンだ。俺のモンにめし奢って何が悪い」
「な、な……なにを、言って、っあ!やっ……!!」
 無理やりに仰向けにされた義勇。その服を思い切り上に捲られ、宇髄の手は義勇の胃の辺りを撫でた。
「言って分かんねえやつには、印つけとかねえとな。オマエが俺のモンだっていう、そういう印」
「しるし……?」
 義勇が一瞬、動きを止めたその隙をつき、宇髄が胸の中央当たりに唇を置き、ぢゅっと音を立てて吸いついてくるのに、義勇はその頭を退かそうとするが器用に両手首とも取られてしまい、宇髄は胸の他に、脇腹そして下腹に真っ赤な痣をつけてそこで漸く、顔を上げた。
 義勇は半泣きで、呼吸を荒いものにしながら宇髄を見る。徐に離される手首。強く握られた所為で、手形の赤い痕がついてしまっている。その手首を撫でていると、立ち上がった宇髄は義勇に背中を見せながらこんなことを言って去って行った。
「明日……朝九時に、お前んち行く。かわいいお前に、戻ってろよ。あと、もう一度言っておく。忘れちまったみてえだから、言っとく。オマエは俺のモンだ。誰のモンでもねえ。俺だけのモンだ。……おやすみ、義勇」
 玄関扉が、宇髄の背を隠すようにゆっくりと閉まってゆく。そして、完全に閉まるとやってきたのは燃えるような激しい怒りだった。
 着ていた服を毟り取るように脱ぎ捨て、先ほど宇髄が吸いついた痕を指先で掻き毟る。ひどい痛みの中、ひたすらに掻いて掻いて掻きまくった結果、宇髄の痕は消えたが、その代わりに義勇が指先で傷つけた鬱血痕が肌に散らばり、一見してみるとひどい擦り傷でも負ったかのような色に変わった。
 それでも気が済まなかった義勇は、今度はひたすらに額を床へと叩きつけ独り言をぶつぶつと呟いた。
「俺は俺のモノだ。あいつのモノじゃない。違う。俺は俺のだ。誰のモノでもなく、俺のモノだ」
 ガツンガツンと額が床へ当たる度、宇髄の笑顔が脳裏に火花のように散った。それがいやで、今度は下穿きを身に着けたまま風呂場へと駆け込み、頭からシャワーの湯をかぶる。冷たかったそれはいつの間にか温水に変わり、義勇は暫くの間、その場から動けずにいた。

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