02 心臓に爆弾


 そんな義勇の態度が気になったのか、宇髄もあまり話かけてくることはせずに一日が過ぎようとしていたが、校内に誰か生徒が居残っていないか点検をした後、職員室へと戻るとそこには宇髄の姿があって、どうやら義勇を待っていたらしい。
「よお、明日だけどさ、お前んち行くけど今から、よかったら晩めし食い行かねえ?美味いうどん屋知ってんだ。なんか、怒らせちまったみたいだから詫びにと思って」
「そんな……怒ってなどいない。こちらこそ、済まない。気を遣わせてしまって。……うどんか。いいな、じゃあ行く」
「よっしゃ!だったら、そのまま家まで送ってやるから車行こうぜ。あー、腹減った」
 宇髄のなんてことのない様子に、どこかホッとする義勇だ。ぐちゃぐちゃとつまらないことを考えていても仕方がない。ここには、こうして夕食も誘ってくれる、いつもの優しい宇髄がいるだけで、義勇が考え過ぎなのだ。考え過ぎはいつだってよくない結果を招くもの。
 表情を明るくし、宇髄に続く義勇なのだった。
 うどん屋は少し遠くに位置しているようで、優しい女性ヴォーカルの歌声が車内に流れる中、何気ない雑談をして過ごした。
 宇髄の機嫌は完全に治っているようで、今日一日、考えすぎて損をした気分になる。隣に目を向けると、宇髄は華麗なハンドルさばきを見せ、その姿にドキドキと心臓が高鳴る。やはり、カッコイイと思ってしまう。顔もきれいなら、仕草さえきれいとは。
「おお、ここ。ここのうどんが美味いんだ。お前もきっと、気に入るはず」
 車は迷いなく駐車場へと入って行き、一発でバック駐車を成功させた宇髄と共に車から降りると、そこにはうどんと大きく書いたのぼりが立っており、宇髄が先導して店の中へと入ってゆく。
 店中は大混雑で、決して狭い店ではないのだが、店員がてんてこ舞いで客を回しうどんを運んでいる。
 客は義勇たちの他にも二組いて、どうやら少し待たなければならないようだ。しかし、やはり金曜の夜は客が多い。明日が休みという会社員も多いのが原因の一つなのだろうが、待つ客が多ければ多いほど、味も期待できる。
 すると続けざま、三組の客が店を出て行って義勇たちはすぐに呼ばれ、椅子席に案内された。そこで、意気揚々と宇髄がメニュー表を開く。
「さーて、なに食う?義勇はなにが好きだ?」
「俺は……そうだな、どれにしよう。こういう時、いつでも迷ってしまう。自分が何を食べたいのか、なにが好きなのかがよく分からなくて、困る。……ごめん、連れてきてもらっておいてこんなんで」
「謝ることはねえよ。べつに、そんなことで怒らねえし。そっか、食いたいものが分からないなら俺と同じもの食うか。そうだなー、今日は暑いし冷やし月見とろろうどんとか」
「うん、それがいい。それでいい」
「あとは、天ぷらの盛り合わせ頼んで冷ややっこも。それと、枝豆くらいか。それでいい?あとウーロン茶な」
「分からないから、それでいい。宇髄が食べるものを食べる」
 すると、宇髄は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になり、後、笑顔に変わる。
「やっぱオマエって、かっわいいのな」
 その言葉に、義勇は顔に血が上ってゆくのを感じた。
「宇髄に言われるのは、不思議といやじゃない。けど、俺はかわいくないぞ」
「俺がそう感じるんだから仕方ねえだろ。かわいいやつだよ、オマエは。舐め回したいくらいにはな。さ、店員呼ぶぞ」
「う、宇髄!そういうことを人前でっ……!」
 義勇の抗議もなんのその、強引に店員を呼んでしまい注文を言いつけている。そして、置かれた水のグラスとおしぼり。
 目の前の宇髄はおしぼりを手に、長い睫毛を伏せて手を拭いている。
「あの、宇髄。今日は俺が奢る。だから、金は払わなくていい」
 その言葉に、宇髄は義勇を見た。そして、大きく溜息を吐く。
「あのな、誘ったのは俺。お前は大人しく奢られてりゃいいんだよ」
「そういうわけにはいかない。だって、外食すると必ず金を出すのは宇髄だ。俺だって、教師という職について金を稼いでいる。お前と立場は同じなんだ。だから」
「この話は止そうぜ。どこまで行っても平行線だ。俺はお前に金を払わせる気はない。この話、前にもしたよな。地味に何度も言わせるな」
「いいや、今日こそは奢らせてもらう。だって、後ろめたい。俺だって、男だ。好きな人にばかり金を払わせたくないという気持ちがあることを、分かって欲しい」
「だァからっ……!何度言えば分かるんだお前は。俺のオンナになったからには、金は絶対に払わせねえ。これは男の意地だ。言ってみれば、お前の男の意地みてえなもんだな」
「……俺はオンナじゃない。前々から思っていたが、お前はすぐに俺をオンナ扱いする。俺は男だ。なにも分からないけど、こういう関係は間違ってる。俺とお前は対等じゃなくてはならないと思う」
 宇髄は黙った。
 そのうちに頼んでいた料理が運ばれてきて、二人はなにも言葉を発することなく食事を終えた。残念ながら、味は分からなかった。なにを食べても味がせず、文字通り味気のない食事を終えた義勇は、さっと会計票に手を伸ばしたがその手は宇髄によって振り払われ、言葉なく立ち上がった宇髄はさっさとレジの前に立ち、それでも義勇は食い下がり財布を出して横から札を何枚か捻じ込むが、突然だった。宇髄の眼が吊り上がり、義勇の身体を強く押したのだ。加減もされなかったそれに、義勇はバランスを崩して尻もちをついて倒れてしまい、会計を済ませた宇髄に腕を引かれ、立たされて共に店を出る。

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