09 蜜、啜る


 義勇はふんわりと意識が浮上してくるのを感じた。なにか、身体が温かなものに包まれている。
 辺りを見渡すと、そこはベッドルームで首を傾げて後ろを確認すると目を瞑った宇髄が義勇を抱いており、規則正しい呼吸音が聞こえる。
 先ほど、心の声をすべて宇髄にブチ撒けた。けれど、何故か後悔というものが浮かび上がってこない。寧ろ、彼への想いを伝えられたことに深い満足を覚えるだけだ。
 そろりと身体を反転させると目の前には宇髄の整った顔がある。何か考える間もなく、薄く開いた唇へと口づけしていた。優しい感触が唇に拡がる。
 先ほど、この唇の主と人には言えないことをしてしまった。思わず顔を赤らめる。
 そのままじっと、目の前にある整った顔を見つめる。頬を撫でたい。欲求に逆らうことをせず、手のひらですりすりと擦ってみると肌のきめ細かさが窺える。すると、突然だった。ぱちっと片目が開き、紅色が顔を出して口角が上がる。
「義勇、いま俺にキスしたろ」
「きっ……して、してない!そんなの、してなっ……したかも、しれないけど」
「かわいいよなあ、オマエはよ。さて、酒の気は抜けたか?」
「ぐっすり寝たし大丈夫だ」
「じゃあ、かわいいお前に俺からこれを、プレゼントしようと思う」
 宇髄は握りしめていた右手を開けた。すると、手のひらには銀色に光るネックレスの姿があり、差し出されるそれを、義勇は受け取った。
「これ……」
「なんかな、最近映画見たんだよ。レンタルだけど『パティ・ケイクス』って知ってるか」
「し、知らない。映画はほとんど見ないから」
「その物語は容姿にも境遇にも恵まれない女が夢を掴むっていう内容なんだけど、その女が自分のことを『キラー P』って言っててさ、そのPっていうのはその女がパトリシアって名前だからなんだが、それを真似して作ってみた。その女のタフさっていうのがお前と被って……」
「それがこのネックレスと何か関係があるのか?」
「その女のいつもつけてるネックレスが『KILLER P』なんだよ。だから、お前は『KILLER T』。ホントはGにしたかったんだがGだとその……分かるだろ、ちっとマズイってことで冨岡のTにした。俺のハートをノックアウトした、お前にプレゼント。つけてやるよ」
「あの、これはどうやって手に入れたんだ?オーダーメイドとかなんかか」
「オーダーメイドっつーか、俺を誰だと思ってんだ。美術教師だぞ。放課後に工具室借りて、俺が作った所謂、手作り。お前は花のようなやつだから、花っぽいものもあしらってみた。似合うといいけどな」
 義勇は訳もなく緩む涙腺と戦いながらネックレスを宇髄へと渡すと、ちゃらりと音を立ててネックレスが首に回され後ろで留められる。
「おお!似合う、似合うぞ義勇!すっげかわいい!オマエのかわいさはホント、果てがねえな!作った甲斐があったってもんだぜ。なあ?って、泣くなよ……」
 義勇は、宇髄のことを真正面から見られなくて両目を瞑り、涙を流しながら心の赴くがまま、言葉を口にしようと思った。
「俺……すき。宇髄のことが、好き。……大好き……ごめ、好きになって。ごめんなさい。でも、心に嘘は吐けない。どうしても、どうやっても宇髄が好きだと思う。だから言う。好きだ、宇髄。……大好き。けど、忘れていいから。覚えてなくていい。こんな言葉、迷惑なだけだ。それに、報われようとも思ってない。だから……ごめん」
「義勇、違うだろ。ごめんじゃねえよ、いま言う言葉はごめんじゃねえ。俺も、お前のこと好き」
「うずい……?」
「迷惑だなんて、誰が思う。俺は嬉しいぜ。すっげ、飛び上がりたいほど嬉しい。好きだと思ってる相手に好きだって言われたんだからな!お前はどうだ。俺に好きって言われて、嬉しくねえのか」
「……嬉しい。すごく、嬉しい。言われるたび、夢かもって思う」
「夢なんかじゃねえ。寝ぼけてんじゃねえぞ。俺は真剣に言ってる。お前のことに関しては、嘘も冗談も言わないって決めてるからな。俺の方こそ、真剣なんだよ。真剣に、お前のことが欲しい」
 義勇は両手で涙を払いながら首を振る。
「そんなことっ……言ってくれなくてもいい。離れて行くのがつらくなる。お前の後ろ姿を見るのが、つらくなるのはいやだ」
「おい、義勇。お前って結構後ろ向きなのな。どうして離れて行くことが前提なんだよ。ふざけてんじゃねえぞ。俺の本気が受け取れねえのか」
「だって……俺だし。だから、宇髄は誰か他のちゃんとした、きれいな、おんなの人と」
「黙れ。じゃあ、ハッキリ言う。今まででもハッキリ言ってきたけど、今から聞く告白、受け入れろよ」

 こそりと耳元で囁かれたその言葉を聞いた義勇は、宇髄の腕の中で水をもらった花のように笑った。

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