04 蜜、啜る


 車内のBGMは派手好きな宇髄の好みそうなロックだろうか、それが大音量でかかっていて、しかし義勇はあまり好きでない。というよりも、音楽は聴かない。うるさいと感じてしまうのだ。
 思わず身体を固くしてしまうと、宇髄もそれが分かったのか片手でいろいろとオーディオ関係だと思われる何かをいじった結果、義勇でも聴きやすい優しい女性ヴォーカルの音楽が流れ出す。
「……ありがとう、宇髄」
「いいや。気づかなかった俺が悪い。お前って、音楽もだめなのな。人生の半分は損してる気がするぜ」
「俺は……お前には悪いが、面白くない人間だ。冗談も通じない。話すことも無い。人生の半分を損してるのは、宇髄、お前の方だ。俺と関わるとロクなことが無いぞ」
 そこまで喋って、義勇は自分で言って自分で落ち込んだ。
 その通りだとはいえ、こんなことを言ってしまえば宇髄はきっと気分を悪くすることだろう。
 ちらりと運転席側を見ると、宇髄は無表情でハンドルを回している。
「……すまん。こんなことしか言えなくて。でも本当のことなんだ」
「べつに、お前はそう思ってればいいよ。勝手に思ってろ。でも、俺はそうは思ってねえし、お前のこと、好きだって気持ちに揺らぎはねえよ」
「すっ……好き、とか……そんな、ことを俺に思ってはいけな」
「お、着いたここだ。ココのカフェのパンが美味ぇんだ。ほら、もうすぐお待ちかねの朝めしだぞ」
 義勇の言葉は宙ぶらりんになり、しかしいくらかホッとする義勇だ。もうすぐで余計なことを言ってしまうところだった。これ以上、宇髄にきらわれるわけにはいかない。そう思う自分に驚く義勇だ。
 そして、顔を赤らめる。
 思わず顔を俯かせると、宇髄は既に車から降りていて助手席の窓を叩いてくる。
 慌てて車から降りると、先導して宇髄が店に入り義勇も追って店内へと足を踏み込ませる。途端、ふわんっと感じるコーヒーのかおりとパンのにおい。
「さーて。なに食おうかな。ここな、朝だけのサービスで三つ以上パン買うと、ハムエッグとスープ付けてくれてコーヒーも二杯までならタダ!すごくねえ?」
「それは……すごいな。どんなパンでもいいのか」
「おお。並んでるパンならどれでもいいらしいぜ」
 義勇は目を彷徨わせ、その視点はあるところで止まる。トレーとトングを取ろうとしたところで、宇髄が先にそれらを用意し、トントンとトレーを指で叩いた。
「ここ、乗せればいいからな」
「でも……そうすると金が」
「つまらねえ金の話なんかするな。地味にテンションが下がる。んなこといいからさっさと好きなパン選びやがれ」
「ぶどうパン。宇髄、俺はぶどうパンがいい。ぶどうパンだけでいいから、ぶどうパン」
「それだけ?あのな、他のパンも食えよ。オススメ、教えてやるから。たまにはいいだろ。つかオマエ、毎日食ってんじゃん、レーズンパン。今日はだめだ。他のパンも食べる」
 強引に決められ、義勇の今日のパンはレーズンパン、コーンパンそして焼きカレーパンとなった。なんだかくすぐったい思いがする。宇髄の選んだパン。普段、なぜ義勇がレーズンパンしか食べないのかという理由は、なにを選んでいいか分からないのだ。なににも興味が湧かないため、以前食べて美味しかったパンという理由で、義勇はレーズンパンを食べ続けてきたという経緯がある。
 金を支払って席に着き、真正面には宇髄がいる。たったそれだけで、義勇は口角が勝手に上がってしまう。
 上機嫌で早速コーヒーを啜り飲む。
「美味い……!酸っぱくもなく、苦くも無くて美味しい……!」
「な?パンも食ってみろよ。美味いぞー」
 宇髄の言った通り、どのパンも美味く、義勇は夢中になってパンに取っ組みせっせと口を動かす。ふと気づくと、宇髄は義勇を見ておりその顔には笑みが浮かんでいる。
「すげ、必死な。……かわいい。すっげえかわいい」
 腕が伸び、その手の甲は義勇の頬を撫でてくる。思わず、顔に朱を走らせてしまう義勇だ。
「オマエはいいよなあ、かわいくて」
「ほ、ほれははわひふはい」
「いいから、喋らねえでいいから食いな。ただ、少し触りたくなっただけだ」
 そんな甘々な雰囲気で朝食を終えた義勇は、帰って来たアパート内の冷蔵庫の前で笑む宇髄を呆然と見た。
「なっ!大吟醸、買って来た。昼間酒はいいぞー!早速飲もうぜ。ここなら酔いつぶれたってなにしたって関係ねえし」
「う、宇髄。俺に酒はだめだ。一度、ひどく酔っ払ってしまって……失敗を、した。だから、酒は」
「地味につまんねえこと言うなよ。飲めるんだよな?だってお前、この間ビール飲んでたし」
「寧ろ、飲めるから問題なんだ!俺は飲まんぞ」
 すると、宇髄は口を尖らせて文句を並べ立て始める。
 あまりにもくどいそれに、義勇は大きな溜息を一つ、吐いた。そして、言い聞かせるよう口を開く。
「……分かった。飲む。だが、俺に酒を勧めるな。手酌でなら、飲んでもいい」
「ホントか!よし、じゃあ早速飲もうぜ!つまみもな、買って来てあるからよ」
「つまみは……あんまりにも悪いから、俺が作ろう。少し待っててもらえるか。あと、悪いが猪口が一つしかない」
「そう思って、ちゃんと二つお揃いの猪口は持参済みだ。まあ、お前だもんな。どうせ食器も一組しかねえんだろ。じゃあ、先にやってるから、つまみ頼むわ」
「ああ、分かった」

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