追記


「だから、お前が今頭ん中にある術式じゃなくて、こっちの三円に分割させた重複術式の方が威力は無論、魔力の消費も抑えて施行できる」
「…そうか、確かに。これ、ナギが考えた?」
「あ?これか、これは…違うな。でもまあ、俺が育てたようなもんだ」
「じゃあ、西の魔物が使ってくる呪いの解呪法は?」
「あいつらが使ってんのは正確には呪術じゃない。正体は、まあ、どうでもいい。呪術じゃねえなら簡単だ、同じ攻撃で相殺すりゃいい」
「あー、つまり、魔術?」
「さあ、なんだろうな」
「教えてくれないのか?」
「お前の知ってる魔術順番に当てりゃあたどり着く。実践で学ぶのが一番だ、そうだろ?」
「…厳しいね、先生」
「先生?やめろ気持ちワリィ。善意でやってんじゃねえんだ」
「街の教師だって善意だけじゃないさ」


「さっきの話だけどさ」
「なんだよ」
「なんでナギはいろいろと教えてくれるの?」
「お前らには利用価値があるからだ。その辺での垂れ死なれちゃ困るからな」
「俺だけじゃなくてさ…」
「……」
「禁術師の話、最近知ったとこだけど。
かつてはフィリオ=マギの魔術師として魔術開発の一端を担い、持ち前の素質と知恵で術の水準を高めたものの、魔呪召喚にとどまらず禁術にまで手を出したせいで国を追放された天才的な魔術師がいたって」
「俺だな。80年も前の話だ」
「ナギはここでも自分の知ってることを学士や術師、民に教えてる。俺たちだけの話じゃない」
「そうだな」
「善意でもない、だろ?」
「ああ」
「…ナギってよくわかんないよ……」


「で、結局どうなんだよ」
「んなに知りたいのかよ」
「うん」
「あっそ。」
「…で?」
「そう言われると教えたくなくなるな」
「おい!!」


「簡単な話、あのとき俺は、あの国に投資した」
「投資?」
「…当時、勃発していたヒトと魔物との戦争が収束を迎えてから10年ちょっとって時代だ。生き残った各国が今後の自国の発展の為に領土拡大を目指してたな。その影響で、あの国と北方諸国は緊張状態。俺は一端のトルワの魔術師として国に潜り込んで、持ちうる魔術のほんの一部、あいつらが持ってなかった術を教えてやった。
結局南の国と北方諸国が交戦することはなかった。だが、緊張状態んときに南の国はいくつもの魔術を生み出した。北方諸国はいつ戦争を仕掛けられてもいいよう、他国の技術を盗んでは呪術を開発した。力ある魔物を屈伏させ、召喚術を会得した。」
「なるほど。…ナギが持ってた僅かな知識を元手に、あのときいろんな術が出来たんだ」
「そうだ。俺は自分の手の内を明かすことをなんとも思っちゃいない。いくら頭で分かってようが、俺と常人とは決定的に強さに違いがあるからな。俺は80年前、知識を投資した。結果、今のエネルゲイアには俺がまだ知らない魔術が生まれている。あのとき誰もが得したんだから文句ねえだろ」
「確かに誠意や善意じゃないな。結果的に戦争にならなかったものの、ナギが手を出したことで南の国は武力で他国より優位に立った。それって下手すれば当時弱ってた各国が圧政に敷かれる要因になりえたんじゃないの?」
「だから俺は正義の味方じゃないんだろ?」
「……納得」





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