(2012.01.10)
またなまえと喧嘩をした。
原因は本当に些細なことだった。しかし何故かその時ばかりは俺もなまえも妙にむきになっていて、気が付いた時にはなまえが泣きながら部屋を飛び出して行った。あれから既に数時間が経っていたが、一向になまえが戻って来る気配は無い。流石に心配になってきた俺は、VとXから促されたこともあって、しぶしぶなまえを探しに出た。

「たくっ、何処に行きやがったんだあいつ……」

夢中になると、周りが見えなくなるのはなまえの悪い癖だ。そのせいでよく喧嘩にもなった。だからきっと今回も、泣きながら走り回って今頃帰り道が分からなくなったに違いねぇ。元々ハートランドシティ生まれじゃないなまえは、俺達よりも地の利が無い。だから出掛ける時はいつも俺と一緒で、俺達二人がばらばらに外へ出たことなど一度も無かった。

「……はやく見つけねえとな」

不意にこのまま、なまえが戻らなければどうなるのだろうという考えが、俺の頭を過った。途端に嫌な感情がどろりと心の中に渦巻いて、嫌でも足の動きが速まる。つい数時間前まで喧嘩していたというのに、今はなまえが無事でいることばかりを願っていた。どれだけ互いを傷つけ合ったとしても、俺にはやっぱりなまえしかいない。なまえがいいんだ。

「!」

少し開けた路地に出た時、今いるここから少し離れた場所でようやくなまえを見つけた。しかし発見したまではいいのだが、なまえは数人の男に囲まれ行く手を阻まれていた。まったく、こんな所を一人でふらふら歩いたりなんかするからだ。自業自得だばーか。――と、一通りなまえに悪態をついてから、俺はさっさとなまえを救出する為にその集団に近付いた。


「なまえ」

「W!」

「あ?何だこいつ?」

「おやおや、僕の事を知らないとは心外だなぁ。これでも僕、アジアチャンピオンなんですけど?」

「……」

「アジアチャンピオン?まさか、お前があのWか?」


なまえがまるで、俺を胡散臭い物でも見るかのような視線で見てきやがった。たく、誰の為に助けに来てやったと思ってるんだか。俺は他に悟られないようぎろりとなまえを睨み付けて、男共には努めて明るく振る舞った。もちろんこいつらは、なまえに手を出そうとした糞野郎だ。絶対に許さん。


「すいませんが、彼女は僕の恋人なんです。解放して頂けますか?」

「へへっ、そんな訳にはいかねーんだよ兄ちゃん。彼女もお前なんかより、俺達の方がずっといいって言ってるんだよなぁ」

「……へぇ?それは本当ですか?」


なまえの肩を抱き寄せる男を見て、俺のこめかみに青筋が浮かんだ。ふざけんな、お前らなんかよりも俺の方が断然いいに決まってんだろう。おかしな言いがかりに危うく本性を見せちまう所だった。分かってても駄目な物は駄目だな。俺の傍にはなまえが相応しいように、やっぱりなまえの隣は俺にこそ相応しい場所だ。


「分かりました。では、貴方達と僕とでデュエルをしませんか。何、一対一なんて小さい事は言いませんよ。全員で、かかって来てください」


* * *


「けっ、この程度でデュエリスト気取りかよ。ヘボ野郎共が」


一対大勢という有利な条件でも、奴らは俺のライフさえ削る事ができなかった。まぁもっとも、バトルロワイヤル方式のデュエルの利点を、こいつらの低脳が理解できていたのかどうかさえ怪しいが。


「……」

「おら、なまえ。さっさとこっちに戻って来い」

「……W!」

「うおっ」


そう言ってなまえに手を差し出すと、なまえは突然目尻に涙を浮かべながら俺の胸へと飛び込んで来た。その体を受け止めながら強く抱き締めてやると、今度は数時間前の喧嘩のようにぼろぼろと泣き始めた。くそっ、助けたのは俺なのに。これじゃまるで、俺が泣かせたみてぇじゃねえかよ。確かに泣かせるような真似はしたが、なまえの涙はどうも苦手だ。俺まで泣きたくなる。


「泣くななまえ。ちゃんと助けただろうが」

「だって、怖かったから……」

「馬鹿だな、何で逃げねえ」

「無理だよ、そんな急に動けない」

「……はぁ」


そう言って噎せかえるなまえの体は、可哀想なぐらいにがたがたと震えていた。よっぽど怖かったらしい。普段飄々としている癖に、時たまこんな風にしおらしい姿を見せるから、俺もこいつを手放す事ができずにいる。いつもは俺に強気な態度のなまえだが、やっぱり俺が守ってやらなければいけない存在なのだ。そんな事を染々と思いながら、未だ泣き続けるなまえの頭を撫でた。

VとXに、泣かせた言い訳を考えねえとな。

実にか弱い君

「W兄様!どうしてなまえが泣いているんですか!」

「うるせえ、黙れV」