(2011.03.07)
伊織さんにお使い、もといパシりに使わされたのが昼時を少し過ぎた頃。そしてそのお使いの帰り道、真ノ丞さんとばったり出会してからは、はや数時間。しかし……一向に城下町を出られない。いや、出れる気がしない。

「真さーん」
「どうした?」
「もうこの際言わせてもらいますけどね、貴方は一体どれだけ道に迷う気なんですか。ここさっきも通りましたよ」
「何? そんな筈は……!」
「本当ですよ。見てくださいこの手拭い。さっき私が目印に掛けといたやつです」
「む、むぅ……」

まったくこの人は、戦いの中じゃ伊織さんと同じくらいチートキャラなのに。何故こうも方向感覚に乏しいのだろう?やはり、天は人に二物までは与えても、三物までは与えてくれないのか。腕前、男前が揃っていれば、あとは確かな方向感覚だけなのに。なんと勿体無い。

「あーあ、これじゃ私が伊織さんに怒られてしまうじゃないですか。あの人、団子が食べたかっただけで私をパシっ……お使いに出したんですよ?信じられます?」
「まぁ、伊織らしいといえばらしいな」
「もう何時間も待たせてる……絶対に無刀の虎穿だけじゃ許してもらえないよ」

これも全て真さんのせいですからね。と、私は未だに先頭を立って歩き続ける真ノ丞さんを睨み付けた。いい加減自分が方向音痴だと気付かないものかね。また行き止まりだし。「またか!」じゃないよ、これで一体何度目だよ。

「だぁ!もう真さんの馬鹿!私が伊織さんに鳴神で殺されてもいいんですか!」
「いや、それは困るが……――時になまえ。お前さっきから黙って聞いていれば、伊織の話しかしてないぞ?……もしかして、あいつのことが好きなのか?」
「何こんな時に馬鹿げたこと言ってるんですか。こっちは帰りたいのに帰れなくてイライラしてるんですよ? 死にたいんですか?」
「い、いやすまない……ただ、少し気になってな」
「私が伊織さんを好きになるなんて、絶対にありえませんから」

そうだ。私が伊織さんを好きになることなんて、この先絶対に絶対にあり得ない。何故なら私は、既に今目の前にいる真ノ丞さんのことが好きなのだから。でなければこんな、茶番ともいえる真ノ丞さんの方向音痴に付き合ったりはせずに、自分でずかずか先頭をきって道場に帰っている。

「そうか……」
「そうですよ」
「余りにも仲が良く見えるものだから、てっきり……」

仲が良いというか、私は伊織さんに脅されているのだ。真ノ丞さんのことが好きだということは、誰にも言ってないはずなのに何故か伊織さんにはバレた。だから今日も、そのネタで揺すられパシっ……お使いに行かされた。だから私は伊織さんとは全然仲が良くない。

「……」
「……」

何故か、お互いに黙り込む。ここは行き止まりなのだから、さっさと元来た道を引き返して、あの十字路からやり直せばいいのに。頼むから黙らないで欲しい。さっきも言ったけれど、ここは行き止まりだ。気まずいったらない。

「お前のことが好きだ」
「……え?」
「伊織のことが好きじゃないのなら、俺のことを好きになってくれ」
「え……真さん?ちょ、え、え?ええええええええええええええ!?」

え、今言うの?
(青天の霹靂とはこのことか)