(2013.04.14)
「忍くーん」
「うるせぇ死ね」
「死ねだってこの野郎! 人が用事があって呼んで……すいませんすいませんごめんなさいすいませんでした殴らないでお願いだから!」
「殴らねーよアホ」

忍くんはそう言ってくるりと私に背を向けると、格納庫から出て行こうとする。私は慌ててその背中を追いかけながら、ポケットに両手を突っ込んだまま歩く忍くんの腕を掴んだ。

「待ってよ忍くん! 艦長さんが忍くん達のチームを呼んでるの!」
「だから何だよ。んなもん、沙羅か亮が聞いときゃいいだろうが」
「それがリーダーの言う事か! ハゲ!」
「俺はハゲてねぇ」

忍くんはそう言って私の手を振り払うと、そのまま歩いて行ってしまう。しかしこのまま忍くんを行かせるわけにもいかず、私は忍くんの後を追いかけ続けた。

「忍くん!」
「うるせぇな、俺は行かねーぞ」
「行ってもらわないと私が困るの!」
「そうかよ」

言付け通りに忍くんを連れて行かなければ、艦長に怒られるのは私なのだ。しかしそれを知りながらしれっと答える忍くんにイラっとした私は、彼の背中に思い切り拳を叩きつけた。すると突然の攻撃に耐えられなかった忍くんは、そのまま前のめりに倒れる。

「いってぇ! てめぇ何しやがる!」
「忍くんのばーかばーか! このハーゲンダッツ!」
「意味わかんねーよ!」
「ほら行くよ! さっさとく、どぅおあ!」

私が倒れた忍くんを連れて行こうとすると、忍くんから足払いをくらった。当然ながら私は忍くんの方に倒れ込み、これまたお約束のように私が忍くんに覆いかぶさるような態勢になってしまった。顔が近い。

「ごごご、ごめんね忍くん!」
「何どもってんだよ」
「う、うるさい! て、ちょ、あれ……」

慌てて忍くんから離れようとすると、何故か身体が離れない。忍くんが私の腕を掴んでいるからだ。こなくそぉ! と維持でも忍くんから離れようとするが、元々力の強い忍くんに叶うわけもなく、ギチギチと強い力で忍くんの方に引き寄せられる。

「放せ! 何すんだこのハーゲンダッツ!」
「嫌だ、放さねえ」
「放さねえじゃねーよ!」

何とか忍くんから離れようとするが、忍くんは更に力を込めるだけでとても敵いそうにない。試しに足で腹を蹴り上げようとしたが、足が短くて届かなかった、ガッテム。

「はーなーせぇええええ!」
「……なぁ、なまえ。お前は俺を艦長の所に連れて来てーんだよな」
「そ、そうだよ! だから、こんな事をしてる暇ないの!」
「ふぅん。じゃあ仕方ねーから、行ってやらない事もねえぞ」
「え? マジで?」
「あぁ。んでまぁ、その代わりになーー」
「!」

その代わりに、何よ。と言いかけた私の言葉を遮って、忍くんが私にキスをする。掠めるような一度目のキスと、上唇を食むようなキスをした忍くんは、得意気に笑って私の両手を放した。すると拮抗していた力関係が崩れ、私は後方へごろごろと転がり壁に激突した。

「な、何するんだ!」
「さーてと、俺は約束通り艦長の所に行かねえとな」
「何も約束してないし、最初からそうしろばーかばーか! 忍くんのばーか!」
「うるせぇ。パンツ見えてんぞ」
「こ、このド変態!」


追いかけるなら、捕まえる
(忍の奴、構って欲しくてやってんのよ)