(2013.03.07)
「俺はお前に会って色々考える事が増えた。例えば、こんな大人しく男の隣に並んでいられねぇ女もいるんだ、とか」
「喧嘩売ってるの甲児くん」

喧嘩なら買うぞ、と私が勇ましくファインディングポーズを取ると、甲児くんは苦笑しながら私の拳を下ろさせた。まぁ、正直喧嘩で甲児くんに勝てる気がしないから別にいいんだけどね。しかしどちらにせよ甲児くんにそんな事を言われるのは心外だ。本当に心外だ。

「でもよ、仮にお前と出会って無かったとしたら、きっとこんな風に思う事も無かったよな」
「……そうだね」
「何億もの遺伝子から運命的な確率で選ばれたなまえが、成長して、今俺の目の前に居る訳だろ」
「……」
「それって凄くね?」
「……ごめん、甲児くん、私には何が言いたいんだかさっぱり……」

眉間にしわを寄せて甲児くんを見上げると、彼は困ったように首を傾げた。何だよ、今ので分かると思ったのか。分かる訳ねーだろ。つーかお前はソクラテスか、ギリシアの哲学者か。難しい話を好む性分でも無い癖に、今日の甲児くんは何だか変だ。未だ握られたままの掌も、妙に熱っぽい。風邪でも引いたのかな。

「はぁ、分かんねーかなぁ。ようするにあれだ、あれ」
「あれって……だから何」

呆れたようにため息をつかれ、何だか逆に申し訳ない気持ちになる。しかし私はあれそれで言葉が通じるほど甲児くんと付き合いは長くないのだ。ちゃんと名詞と文法を駆使して言ってもらわなければ、分からない。そんな訳で私がどうにもならない気持ちでしばらく甲児くんを見つめていると、痺れを切らした甲児くんが突然私を抱きしめた。

「こ、甲児くん……?」
「……」
「あ、え……?」
「……とう」
「え?」

「誕生日おめでとう! 産まれてきてくれてありがとうよ!」

君の起源を辿る
(きっと奇跡に辿り着く)