(2013.03.11)
※続き


「なまえ」
「ギュネイ、准尉」
「相変わらずだな、名前で呼んでいいと言っただろう」
「申し訳ありません……つい癖で」
「まぁいいさ。お前に階級で呼ばれるのも悪い気はしないから」

そう言ってギュネイは後ろから私を抱き寄せて、ヤクトドーガの整備画面を見つめる。出撃もしばらく無いようだから、きっと暇を持て余しているのだろう。私もこうしてギュネイが会いに来てくれるのが無性に嬉しくて、構わずそのまま整備を続けた。

「大佐に見つかっても知りませんよ。私を悪い虫から守るように言われたんじゃないんですか」
「かまうもんか」
「もう、貴方は……」
「お前は俺の物だろう」

す、と彼の指が私の顎を伝って、唇に触れる。ちゅ、と小さく音を鳴らして、頬にキスをされた。その瞬間身体中が熱くなって、すぐに動悸が速くなる。それを敏感に感じとったのか、ギュネイが私を抱く腕に力を込めた。

「好きだ、なまえ……」
「ギュネイ……」
「お前を放したくない」
「ちょ……!」

ツナギのファスナーを半分まで下ろして、ギュネイの手のひらがシャツの上から私の胸を揉む。今は仕事中だから何としてでも止めなければいけないのに、上手く身体に力が入ってくれない。そのまま腰から力が抜けて、がくりと私の膝が折れる。

「准尉、仕事中ですよ……!」
「あぁ、知ってる。でもどうせしばらくヤクトドーガで出撃する予定も無いんだ。今整備を終わらせ無くてもいいだろう」
「そういう問題じゃ……!」

無重力状態の中でこんな事をされて、抵抗が抵抗にならない。このまま流されてはいけないのに、流されそうになる自分がいる。誰かに見られでもしたら、恥ずかしくてこれから仕事にならなくなってしまう。

「あんっ……! もう、分かりましたから……! やめてください……!」
「へぇ、どう分かったんだよ?」
「し、仕事が終わってからでは、駄目なんですか……」
「はは、言ったな?」

私の胸を掴んでいた手のひらが離れて、下げられていたファスナーが戻される。

「まったく、こんな所で盛るのはやめてくださいよ……」
「盛るとは何だ、盛るとは」
「お若くてけっこうですね」
「お前の方が年下だろうに」

とりあえずギュネイを思いとどまらせる事はできたが、相変わらず密着した身体を放してはくれない。こんな所を大佐にでも見られたらどうなる事か。ギュネイはたまに、若さ故に向こう見ずな行動を取る事があるが、私はそれが心配でならなかった。いつかそのせいで誰かに撃墜されてしまうのではないかと思うと、自然にヤクトドーガの整備にも力がこもる。

「お前達……何をしている」
「が、ガトー中尉……!」
「見て分かりませんか中尉。 俺の機体の整備ですよ」
「ふん、そんな整備の仕方があるか。若いとはいいものだなまったく……」
「も、申し訳ありません……」

公私混合の甚だしい私達に見兼ねたガトー中尉が、呆れたようにそう言った。しかし当のギュネイはそんな事も気にする様子は無く、私の肩に顎を載せて、ぎゅっと抱き締めた腕に力を込めた。

「懲りない方ですね」
「悪かったな」
「……そんな貴方も好きです」


のめりこむあい
(周りが見えなくては困ります)