(2012.09.30)
空白みたいな、何も無い空を見上げていた。空を見上げるのなんて何年振りだろうか。それくらい、久しぶりに空をこの視界に移したような気がした。するとどうだろう、あれほどくよくよと悩んでいた事が自然ともうどうでもよく思えた。私が生まれ、生きるこの街の空。


「考え事ですか」

「んー、そんなところ」

「あまり抱え込むのは良くないですよ」

「それもそうだ。でも、ま。どんなに悩んで落ち込んだりしても、また明日笑っていられたらそれだけで満足かな」

「いいですね、それ。みょうじさんらしくて」


そう言ってゆっくりと微笑む黒子。私もその笑顔に笑って応えながら、その明日の私の隣には、また君がいてくれればいいなと思った。そんな風にゆっくり歩く二人の帰り道が、これから先もずっと続いていけばいいと。例えば、争ったりいがみ合ったり、日々の尖った部分も全て呑み込んだ、この街の様に。例えば嘆いても笑っても、見上げればいつでも紅い夕焼けが広がっているこの空の様に。


「黒子」

「はい」

「私は何があっても味方だよ」

「……急にどうしたんですか」

「別に、感傷的になってるわけじゃないよ?ただ黒子がどんな事を考えたり願ったりしてても、私はきっと黒子の事を応援するってだけ」

「……そう、ですか」


迷った時も、バスケが嫌になった時も。先を見えなくする真っ暗な闇の中を切り裂いていけた黒子になら、叶わない願いなんて一つでもあるものか。いつかあの夕焼けに戸惑う未来を託して、誓った夢も理想も、時の流れの中でガラクタのように錆び付いてしまうのかもしれない。だけど信じたい、それでもまだ終わりはしないのだと。


「黒子」

「はい」

「私達はあとどれくらい、悩んでいけるのかな」

「さぁ……僕らまだ若いですし。きっともっと悩んで生きていけますよ」


そうだね、なんて相槌を打って。私は黒子の手を握ってみた。するとすぐに指ごと絡め取られて、私達の手はまるで恋人のように握られる。どれだけ迷子になっても、いつだって黒子の影が私の前に横たわっていて、その影が私の道標になるのだった。


「……みょうじさん、僕から一つお願いしてもいいですか」

「ん」

「僕のこと、黒子じゃなくてテツヤって呼んでください」

「んー……分かった」


私がそう頷くと、黒……、テツヤはまた嬉しそうに微笑んだ。その笑顔になんだか胸がほっこりする。そしてまた考え事をしながら、私は空を見上げた。すると今度は、テツヤもつられて空を見る。


「……」

「明日も晴れますね、きっと」

「そのようですな」


この先もきっと、黒子が言うように私達の目の前には悩み事や不安事なんていくらでも転がっているのだろう。知らん顔で過ぎていく日々に強がったり、不意に止んだ風に不安になったりして。けれど、私は、それでもいいやなんて思いながら、繋いだ手にそっと力を込めた。私はこれからも悩みや希望を抱えて、この街で生きていくのだ。生涯この二度と得難い最良の友人と一緒に。ずっと生きていく。


この街で生きていく

「この街で生きていく」
song by amazarashi