(2012.03.04)
恐竜帝国との決戦を終えて帰って来た竜馬は、今にも泣き出しそうな表情で私を強く抱き締めた。そのまま二人一緒にベッドへ倒れ込んで、お互い静かに口を閉ざした。


「……」

「リョウちゃん」

「……」

「リョーウちゃん」


呼び掛けても彼は何も答えず、代わりに私を抱く手に力を込めた。彼がこうなってしまった原因を、私は既にミチルさんと隼人くんから聞いていた。ゲッターチームの中でもとくに竜馬と親しかった武蔵くんが、恐竜帝国の帝王であるゴールの策略から皆を守る為に、その命を落としたのだ。


「武蔵くんはさ、」

「……」

「最後まで武蔵くんらしかったね」


粗暴で喧嘩っぱやくて、何かと見栄を張る武蔵くんだったけれど、誰かの為なら命を惜しまずに戦う勇敢な戦士だった。そんな彼だからきっと、今回も竜馬や他の仲間達を助ける為に亜空間に一人で残ったのだ。恐竜帝国を滅ぼした後の、地球の未来を竜馬達に託して。


「かっこいいね、武蔵く……っ」


そこまで言った私は不意に言葉を詰まらせて、ぼろぼろと涙を流していた。私も武蔵くんと、よく意見が衝突して口喧嘩をした。その度に勝敗がつかなくて、竜馬や甲児くん達が止めに入るほどの殴り合いなんてしょっちゅうだった。私以上に悲しんでいる竜馬の為にも、絶対に泣かないと決めていたのに。いざ言葉にすると武蔵くんの事ばかりが思い出されて、私は溢れる涙を堪える事ができなかった。


「なまえ……」

「ごめん、ごめんねリョウちゃん……もう少し、もう少しで泣き止むから……っ」

「……いいんだ、あいつの……武蔵の為にも、どうか泣いてやってくれ……」


漸く首を持ち上げた竜馬が、そう言って私の頭を優しく撫でた。けれどそう言った竜馬も私以上に涙を流していて、余計に切なくなった私は彼の涙を指先でそっと拭った。しかしそれでも竜馬の涙は後から後から溢れて来るから、堪らなくなった私もまた一緒に泣いてしまう。こんな所、絶対に甲児くん達には見せられないねと私が言ったら、ふと泣くばかりだった竜馬が少し笑った。


「ねぇ、リョウちゃん……」

「……?」

「またいつか……武蔵くんに会えるかな」


武蔵くんの死を聞いたイルミちゃんがぽつりと「あの人は何か、大いなる力と一つになった気がするの」と言っていた。だから、そう、武蔵くんの魂は決して消えた訳では無いのだと思う。だから私も信じてみたい。武蔵くんの魂は今、大いなる力の中を流れていて、いつも竜馬達のことを見守っているのだと。武蔵くんと最期まで命を共にした、あの黒いブラックゲッターと一緒に。


「あぁ、俺もそう信じているよ」


死んだ人間は確かに二度と戻っては来ない。けれど死者にはもう決して会えないなんてことを、一体誰が決めたというのだろう。いいや、そんな決まりなんて何処にもありはしないはず。ゲッターチームとして、武蔵くんの仲間だった私達にだからこそ、分かることがあるのだ。肉体から解き放たれた武蔵くんの魂は今、きっと不甲斐なく泣いている私達に「根性のない奴らめ」と腹を立てているに違いない。




君の魂に告ぐ

(またきっと、いつの日かあの場所で)